欧州では、データ主権は「経済生産性」の問題
Microsoft、Google、AWSのハイパースケーラー3社がクラウドの代名詞であること、そして3社ともに海外企業である状況は、日本も欧州も同じだ。そして、クラウド以前から情報通信技術(ICT)とインターネット経済では、米国のほぼ一人勝ちという状況に苦汁をなめてきた。
欧州中央銀行(ECB)の全総裁Mario Draghi(マリオ・ドラギ)氏の名に因んで「ドラギレポート」と称される『The Future of European Competitiveness』は、欧州の経済力を調べた年次レポートだ。その最新版は、2024年9月に公開された。
同レポートによると、27ヵ国で構成される欧州連合は世界のGDPの17%を占めている。これは米国の26%に次ぐもので、中国と同じ比率だ。一方、競争力があるにも関わらず、成長は鈍化。ドラギレポートでは、成長鈍化の主な要因は「生産性の低下」と指摘されている。
「テックセクターとテクノロジーの受け入れが弱く、生産性の低下につながっている」と述べるのは、HPEでワールドワイドバイスプレジデントとしてサービスプロバイダー、コロケーション、Google、AWSアライアンスを担当するXavier Poisson氏。その根拠として、欧州で新たに創造される“価値の70%”がテクノロジーとデジタル化によるにも関わらず、欧州のデータの90%が域外に移転していると指摘をした。
データは石油に代わる資源と言われているのは周知の通りだ。Poisson氏はさらに、テクノロジー/デジタルの80%をEU域外から調達しているという現状も紹介。こうした状況が、欧州で「データ主権」が叫ばれている現況につながっている。
データ主権を確立することは、生産性の向上につながるだけではない。ベンダーロックイン対策となり、自分たちの国・地域のプロバイダーを強化する可能性も秘めている。EU域外にデータが保管されているため、クラウドに移行できなかった企業がクラウドに移行できるようになると、システムのモダナイズや保守コストからの解放など、クラウドのメリットを享受できるようにもなるだろう。そして、これが欧州の経済力につながっていく。