「プロセス」偏重の可視化に陥っていないか?
長引く不況にあり、効率化が不可避な経営課題の1つであることは間違いない。そのために企業は膨大なコストや人員を費やして様々な取り組みを進めてきた。しかし、実際には必ずしも十分な成果が得られているとはいい難い。事実、富士ゼロックスの顧客へのヒアリングでは「経営の意思が全体に伝わらない」という根本的な問題のほか、「ルールができても回らない」「思ったように成果があがらない」といった方策に対する不満もあるとのこと。 企業経営を取り巻く環境は厳しい。競争力向上を求められつつ、ガバナンス強化への対応も迫られ、プレッシャーはますます高まるばかりだ。
しかし現場では、リソースが増えるわけでもなく、その時々に応じたプライオリティによって右往左往しているのが実情だろう。河田氏は「2008年はガバナンス、2009年に省力化が主な潮流だった」と語る。しかし一方で、守り一辺倒による停滞を恐れた企業が、ようやく効率化と競争力強化を併行する方策を探りはじめたと分析する。
そうした「効率化と競争力強化」をともに推進し、成果を上げている企業や部門には共通した特徴があるという。それは、社員一人ひとりが『何のために何をやっているのか』を理解していることだ。それが高いモチベーションの源泉となり、全員が自律的に仕事をすることで、効率化を進め競争力を高めていく。逆に「仕事は上司の指示で」というような組織は、すべてが受け身にまわり、ますます負のスパイラルに陥いる。こうした自社他社の様々な事例を分析した中で得られたのが「プロセスだけの可視化だけでは不十分」という実感だ。
河田氏は、可視化すべきリソースとして「プロセス」「お金」「情報」「人」を上げ、その可視化こそ経営層の的確な判断を実現し、社員のモチベーションや仕事の自立性を育むと語る。プロセスやお金の動きしか見えていない経営者が的確な判断ができるはずがない。増力化、ガバナンス強化、効率化すべての判断において、情報や人を把握するために、それらの可視化も十分に行なわれていくべきではないか、というわけだ。
以前の可視化の失敗は「『プロセス』に集中していたことが原因」と河田氏は語る。プロセスを効率化していくためには、情報や人を可視化する必要がある。たとえば、現場においては、どんなシステムもプロセスがわかっているだけでは動かない。どんな人とどんなコミュニケーションが取られているのかを理解することで、スムーズに動かすことができる。そして、その活動であるコミュニケーションの産物である『ドキュメント』を可視化することが有効というわけである。
業務効率化の成功の鍵は「コミュニケーションの最適化」
富士ゼロックスでは他の企業と同様、試行錯誤を繰り返しながら様々な取り組みを行なってきた。そして成果が得られた例として、3つの施策が紹介された。
まず第一にガバナンス強化として、業務の整流化による経費削減と体質強化を目指した「業務改革」が紹介された。さらに、2つ目の事例として、ブランド価値を高めるモノづくりを目指して情報の可視化を図った「製品安全」の取り組みが紹介された。この2つについては、一見、まさに「プロセス」の管理に尽きる。しかしながら、河田氏はこうした「プロセス」管理による業務効率化を成功させた背景には「本当の見える化」を行なったことが大きいと語る。
業務プロセスには、かならず情報の伝達がつきものであり、そのやり取りにドキュメントが使われる。それはまさに「企業のナレッジ」であり、財産である。それを可視化することで、コミュニケーションの偏りや、社員の意識(モチベーション)、社内外の顧客満足度(レピュテーション)を把握しようというものだ。そうした組織においては、常にイノベーションへの気概に満ちており、効率化にも増力化にも積極的に取り組む。逆に、情報が縦割りで共有できず、散在する環境下では受け身的な対応につながり、思うような効果が得られない。
この「情報」と「人」の可視化については、その活動である「コミュニケーション」をコンテンツ(情報)、チャネル(手法)、モチベーション(活性方法)の観点から分析し、最適化することが鍵となる。事実、曖昧な指示を出す役員に十分な時間を使って面談による綿密なヒアリングを行なったところ、成果が上がった、理由や効果といった丁寧な説明でモチベーションを高めることでスタッフの売上が上がった、など成功例には枚挙にいとまがない。富士ゼロックスの顧客事例でも、駅職員向けに手書きでの報告システムを導入したところ情報共有の密度が高まったという。これはチャネルの最適化が導いた成功例だろう。
こうした現場のコミュニケーションの現状を把握するための取り組みが、3つ目の社内事例として紹介された。富士ゼロックスでは2005年3月より、自社サービス『ROBAS』による部門や人のコミュニケーションの分析によって、ノウハウなどの暗黙知やインフォーマルなネットワークなどを可視化しようという取り組みが進められている。メールの履歴やログだけでなく、500名の営業社員が送信機をバッジとして着用し、対面でのコミュニケーションまでも記録ができるという。結果、コミュニケーションの状況を把握することで、共有されている情報や使われているチャネル、予想されるリスクなどが可視化でき、一定のモデル化までが可能になった。
河田氏は、こうした現場のリアルな状況を可視化することで、経営層の的確な判断が可能になり、成果創出に向けた現場の実践力を強化できると説明し、こうした自社における施策によって得られたナレッジやノウハウを、顧客企業へソリューションとして提供していきたいと展望を語った。