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IFRSに立ち向かう! ITの活用による経営管理基盤構築の道標

日本オラクル株式会社 アプリケーション事業統括本部 担当ディレクター 桜本利幸氏

IFRSへの対応は個社にとどまらず、グループ全体での会計処理と財務報告の標準化を求めている。実現するには会計を中心したシステムのグループ規模での全体最適が必要だ。理想はITを効率的に活用したグループ経営管理基盤の構築だが、自社グループに最適なIFSRに対応するシステムの実装手法は何か。その考え方について日本オラクルの桜本利幸氏は、最新のITソリューションと会計の基礎理論の双方から解説した。

IFRS対応におけるシステムの重要性

 日本オラクルの桜本利幸氏は、金融庁が2009年6月に公表したIFRSの取り扱いに関する中間報告で、珍しく「システム」という用語を使用していると指摘する。つまり、金融庁がIFRS適用におけるシステムの重要性を認識しているというわけだ。さらに同報告からは「内部統制とIFRSは表裏一体」というメッセージも読み取れる。

 一方、一般企業はIFRS対応に伴い、システムにどのような懸念を抱いているのだろうか。経団連や東京証券取引所が実施したアンケート調査の結果を見ると、多いのは導入後の決算事務負担とシステムの対応だ。さらに日本CFO協会が実施したサーベイで会計システムへの意識を見ると、「満足していない」、「何とも言えない」と回答した企業が8割に達している。その主な理由は、「IFRSに対応できない」、「ビジネスの拡大や変化に対応したシステムの拡張と仕様の変更が困難」、IFRSで言うマネジメント・アプローチに直結する「管理会計、経営管理に対応できない」などが並ぶ。

 また大手企業でも、6割が現在利用中の会計システムの使用年数が5年以上だ。さらに全体の6割が自社開発か業務で分断されている会計パッケージを使っており、ERPを導入しているのはまだ4割しかない。IFRS先進国の欧州のERP導入率は7割を越えている。つまり日本の会計システムはまだ、全体最適を見据えた構造になっていない企業が多いということだ。

 さらにCFOから見た、3年後の経営課題として、「IFRS対応」「グループ経営管理の高度化」に次いで「情報システムの強化、再構築」に回答が集まった。以前の調査よりCFOのシステムに対する関心が高まっていることから、桜本氏は「IT部門主導ではなく、経理・財務部門を中心とするビジネス部門が、使う立場で情報システムの設計、開発をし始めたということの一つの表れ」と見ている。

日本オラクル株式会社
アプリケーション事業統括本部
担当ディレクター
桜本利幸氏
日本オラクル株式会社 アプリケーション事業統括本部 担当ディレクター 桜本利幸氏

情報システムに求められる「守」りと「攻め」の視点

 IFRS導入の背景には企業活動のグローバル化がある。各国の規準でオペレーション、業績評価、マネジメントしている限り、実像の把握が困難だ。少なくとも会計データだけは考え方、処理の仕方を統一し、同じ通貨を使って評価する必要がある。

 では新グループ経営時代の財務・会計システムに求められることは何か。単に経営資源が見える「守り」だけでは駄目で、蓄積したデータを有効活用する「攻め」の視点が必要だ。

 「守り」で必要な要素は、グローバルの財務会計トレンドにいち早く対応し、企業グループ統一の基準を各拠点へ展開し中央で集中管理できることだ。担うシステムは人、物、金といった経営資源を一元管理するERPになる。そして「攻め」の視点では経営状況を経年比較やリアルタイムで分析し、説明責任を果たすと共に新たな企業価値を創出する企業戦略の立案を支援できるシステムが求められている。それはマネジメント・プロセスを最適化するEPM(エンター プライズ マネジメント:企業業績管理)の領域になる。このERPとEPMを組み合わせることにより、経営管理基盤が構築されIFRSに対応すると同時に、企業価値の最大化を図ることができる。

企業規模、経営モデルに応じた実装手法とは

 桜本氏は、IFRS対応に向けたアプリケーションの実装手法には3種類あるとした。まず手法1が連結システムの導入だ。ビジネスプロセスがそれほど複雑ではなく、扱っている通貨も円だけという企業が対象で、グループレポーティング基盤の整備だけでいける、というパターンだ。業務システムの修正は最小限で済み、短期導入が可能になる。ただし、オペレーションレベルでのIFRS対応は個々に行なう必要がある。業務標準化や、シェアード運用による効率化、運用コスト低減効果は低い。子会社からデータを収集して組み替えて調整するのは本社の仕事になるので、本社担当者の負担が大きく変化への対応力も低い。必要な粒度の情報が集まる保証もない。

 手法2は会計(GL)システムの導入だ。総勘定元帳において共通経理システムを構築するもので、IFRS対応の根幹、目指すべきところといえる。日本の会計基準が残り、複数帳簿が必要になるというケースは、一つのGLの中に複数帳簿を持たせて、本社経理あるいはシェアードサービスセンターの担当者がこれを一元管理していくことになる。収集も仕訳も自動化されるので、かなり省力化になる。内部統制の成熟度も上がる。ここで検討すべきポイントは財管一致勘定科目体系と帳簿体系の設計だ。

 さらに進んだ手法3では、手法2に加えて、業務プロセスの標準化と共通業務システムを導入する。IFRS対応と劇的な業務効率化、コスト削減を同時に実現できる手法だが、当然、グループ全社での取組みが必要であるため、横展開するまでに時間とコストがかかる。

 手法3により、継続的な企業変革と業務改善を実現しているのが、他ならぬOracleだ。2000年当時は世界で約70のERPシステムがあったが、現在は一つに集約されている。グローバルで業務マニュアルは英語で書かれた1つのみで、英語圏以外では翻訳して使用している。コスト削減効果は年間10億米ドル(約1000億円)だ。

 もちろん、どの手法を選択するかは、企業グループの規模、目指すべき経営モデルにより決まる。ただIFRSは内部統制の時とは違い、スタートの前の年に遡及して、1年前の財務諸表もIFRSベースで作らなければならない。もし仮に2015年に強制適用であれば、2014年度もIFRSベースで財務諸表を作成することが求められる。そうすると実は3年しかない。少なくとも、どこを目指すのか、今議論する必要がある。ゴールが見えなければそこに至る道筋と速度は決まらない。

 「シェアード型ERP x EPM」によるグループ経営管理基盤を構築することで、結果としてIFRSなど外部環境の変化、市場からの要請への対応が可能となる。桜本氏は「IFRSや内部統制を後ろ向きな制度対応と捉えるのではなく、企業価値を最大化していく大きなきっかけである」と強調し、講演を終えた。

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EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)

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