日本の役員報酬が2,000万円では、若者は夢を持てない!?
講演の中で特に印象的だったのは、日本企業の役員報酬の実態についての指摘だ。
「上場会社の平均的な役員の報酬が年間2,000万円です。欧米に比べすごく安いですよ。ヨーロッパやアジアのビジネススクールで見てきましたが、役員報酬がこんなに低いところはありません」
さらに驚くべきことに、この役員報酬は一時期60倍まで伸びたものの、現在は50倍まで下がってきているという。スズキ教授はこれを「日本の役員さんのモデスト(謙虚)さ」と表現しつつも、「もっとお金をちゃんともらってください」と訴えた。
なぜなら、この低い役員報酬が若者の夢を奪っているからだ。早稲田大学商学部の学生に「将来役員になりたいか」と聞くと、わずか3割しか手を挙げないという。他大学ではさらに低い2割程度だ。
「7割、8割の学生は会社に入ってお給料をもらえればいいという態度です。役員は大変なのに年収2,000万円では『やっていられない』という話です。夢がないんです」
付加価値の適正分配経営:従業員の豊かさが日本を再生させる
では、どうすれば日本企業は再生できるのか。スズキ教授が提唱するのは「適正分配経営(DS経営)」だ。
従来のPLでは利益最大化を目指すのに対し、DS経営では株主への還元を適正水準(例えば投資額の5%)に設定した上で、残りの付加価値を役員(例えば10%)や従業員(例えば90%)に分配する考え方だ。
「株主さんには一定の配当をお約束する。でも、頑張れば5%以上の付加価値が生まれるので、それについては他のステークホルダーで分配しようというアイデアです」
「日本企業には素晴らしい付加価値創出力があります。この付加価値を従業員に適正に還元すれば、従業員は本来あるべき経済的豊かさを手に入れることができるのです」
特に革新的なのは、従業員への分配を現金と株式報酬を組み合わせて行う提案だ。これこそが新しい資本主義の核心部分だという。
従業員への還元を一部株式報酬とすることで、従業員は会社の株主となり、配当も受け取れるようになる。さらに、退職するまで株式は売却できない譲渡制限付き株式とすることで、長期的な視点で会社に貢献するインセンティブが生まれる。
「従業員が経済的に豊かになり、同時に会社の株主として経営に関心を持つようになる。これが『内からのガバナンス』です」
実例として丸一鋼管や伊藤忠商事の事例が紹介された。特に丸一鋼管では平均給料694万円のところ、870万円相当の株式報酬を従業員に無償配布し、人材確保と従業員のモチベーション向上に成功したという。