「マインド」と「仕組み」の両輪で変革を進める
井無田:事業変革を成功させるには、リーダーシップのあり方だけでなく、ユーザーである社員の「マインドセットの変革」が必要な側面もありますよね。仕組みの変革とマインドセットの変革、どちらから手を付けるべきでしょうか。それともこれらは不可分なのでしょうか。
古森:どちらの難易度が高いかといえば、マインドセットを変えることでしょう。それは企業のカルチャーを変革することにも等しいからです。「変わるぞ」という掛け声ひとつで実現できるものでもない。私は業務プロセスとマインドセットは、お互いの変化を相互作用させながら、“両輪で変えていく”ものだと考えています。
たとえば、多くの社員が行う身近な業務にデジタルを少しだけ入れてみる。それによって「便利になった」という実感がともなえば、少しマインドが変わるはずです。そうやってマインドが変われば、次の業務変革は前回よりもっと前向きに受け入れられる……そんな小さな変化を相互に、少しずつ、素早く仕掛けていくことで変革は加速していきます。
井無田:一方で、DXにカスタマーサクセスが不可欠だとしたら、この考え方を企業に根付かせるにはどうしたら良いでしょうか。セールスフォースは「顧客中心主義」の考え方を徹底していることで有名ですが、古森さんは何を意識していましたか。
古森:単に「顧客中心主義を大事にしよう」と口で言うだけでなく、プロダクトやビジネスと連携させることです。
たとえば、セールスフォースには「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「多様性」「サステナビリティ」という5つのコアバリューが存在します。「信頼」がなければお客様はプロダクトを使ってくれないし、「カスタマーサクセス」に貢献できないと使い続けてもらえない。より長く使ってもらうには、時代に先駆けた“Something New”な提案、つまり「イノベーション」が必要ですし、イノベーションには様々な視点・アイデアを取り入れるために「多様性」が必要。そして、社会や地球に貢献することは、目の前の顧客への貢献にもつながるという意味で「サステナビリティ」も大事。
このような考え方に則って、コアバリューを一人ひとりの日常の業務とリンクさせることで定着していくものだと思っていますし、迷ったときは徹底的にコアバリューに立ち返る。そうやって、はじめて顧客中心主義は根付いていくものだと信じていましたね。
小さく取り組み、成功と失敗をたくさん繰り返しながら学ぶ、というスタンスを持つ
井無田:外資企業にいらっしゃった古森さんは、グローバルにおけるDXの動向もご存知かと思います。グローバルと比較すると、日本の大手企業のDX推進のどこが課題だと感じますか。
古森:意思決定のスピードは課題かもしれません。もちろん、ハッキリとした答えがないものを決めることは容易ではありません。だからといって答えが見えてくるまで動かないのでは、時代の変化に置いていかれます。不確実な状況下でも試行錯誤を通じ、軌道修正していくような動き方をしていくべきではないでしょうか。
致命的な失敗はもちろん避けなければなりませんが、大ケガにはならない程度の小さな失敗ならどんどん積み重ねて、“失敗から学ぶ”スタンスでチャレンジしたほうが良いと思います。
井無田:意思決定のスピードは関係者が多く、合意形成の難易度が高い大手企業に顕著な特徴かもしれません。
古森:走り出すまでに時間がかかる一方、一度走り出したらなかなか止まらない、止められない傾向がありますね。1から100までを綿密に計画を立てるのではなく、もう少し小さな単位でゴールを設定をして、俊敏に動いてみることが必要かもしれません。
これはプロジェクトの推進力を上げる意味でも非常に大切です。たとえば完遂までに3年かかるDXプロジェクトで、3年先まで成果が見えない状況では、プロジェクトメンバーのモチベーションを維持することは難しいですし、他の社員からの賛同・協力も得られませんから。
井無田:本日お話を伺って「変革の本質は技術ではなく、人とチームにある」ということを感じました。AI時代だからこそ、リーダーが環境を整え、顧客と向き合うことが一層重要になりますね。
