「カスタマーサクセス」の視点を抜きに、企業変革は実現しえない
井無田仲氏(以下、井無田):古森さんは2025年の1月末までセールスフォース・ジャパンの副会長を務めていらっしゃいましたが、元々はどのようなご経歴をお持ちなのでしょうか。

古森茂幹氏(以下、古森):大学卒業後、日本ヒューレット・パッカードに就職し、30年超にわたり、エンタープライズ領域の営業と経営に携わってきました。ここで最後に手がけたプロジェクトが“自社のDX”。CRMを社内導入する際に営業組織の責任者としてプロジェクトマネージャーを務め、そのCRMこそが「Salesforce」でした。元々はユーザー側で社内のDXを推進する立場だったんです。
そこからセールスフォースに転じて約10年は営業DXの支援を通じ、クライアントの経営ビジョンを実現するための後押しをする立場として、エンタープライズのセールス責任者を長く務め、プロダクト組織の責任者なども担当しました。
井無田:古森さんのキャリアは「エンタープライズ」と「DXを通じた経営支援」の2つが軸になっているのですね。セールスフォースでは、どのような観点を重視してエンタープライズ企業の経営強化を支援していたのでしょうか。
古森:かつてCRMはセルサイド(営業側)の意向にあわせたデザイン、つまり営業のパフォーマンスを上げることに主眼を置いたプロダクト設計をしていた時代がありました。しかしSalesforceはそれと真逆の発想で、「バイサイド(顧客側)にどれだけ貢献できるか」という思想で構築されたプロダクトであり、「カスタマーサクセス」の概念がプロダクトの基本思想に組み込まれています。
Salesforceはサブスクリプションサービスですから、売って終わりではなく、お客様に長く使い続けていただくことで収益が上がっていくビジネスモデルです。そのためにはお客様が実現したいことに貢献できるプロダクト設計、業務変革を行える仕様でなければ、意義を理解してもらえず使われません。
井無田:やはり、カスタマーサクセスの視点があってこそ、DXも本質的なものになるということでしょうか。
古森:おっしゃる通りですね。私はこれまで、クライアントである多くのエンタープライズ企業と対話してきましたが、皆さんがDXで実現したいことは2つに大別されます。1つはデジタルを軸とした業務変革でデータを一気通貫させ、業務を効率化すること。そしてもう1つが顧客の成功にコミットメントするため、デジタルで顧客接点を強化・洗練させていくことです。企業変革のためのDXを検討する際は、カスタマーサクセスもセットで検討していく必要があるでしょう。
これからのリーダーは“引っ張る”より“引き出す”
井無田:古森さんは、DXをはじめとした“変革の陣頭指揮”を執るリーダーはどうあるべきだと思いますか。
古森:まずは目的やビジョンをしっかりと示すことが重要だと思います。先ほどの通り、DXの目的はおおよそ2種類に大別できますから、まずは「BPR(業務変革)で生産性を高めること」なのか「データ活用による顧客接点の強化・顧客提供価値の向上」なのか、もしくは両方なのかをリーダーが明確に提示する。ゴールの目線があっていないと、プロジェクトメンバーは動きようがないですから。
その上で、先頭に立ってメンバーを引っ張るよりも、皆の力を最大限に引き出し、誰もが発言しやすく動きやすい環境をつくる役割を担う。それこそが、これからのリーダーに求められる役割です。
井無田:メンバーの主体的なアクションを引き出すような、いわゆるフォロワーシップ型のリーダーということですね。なぜこれが重要なのでしょうか。