JCBが大規模基幹システム「JENIUS」を刷新中──新基盤構築にあたり重視した4つの視点とは
メインフレーム上の重要データをクラウド環境へ移行、その道筋を語る
新基盤構築で浮き彫りになった組織の「縦割り」問題
本プロジェクトでは、当初予定していた17ヵ月の工期を約4ヵ月も前倒しして本番環境のリリースまで漕ぎつけたという。その成功要因として、西尾氏はAWS選定による期間短縮、パートナー企業の適切な人材配置、IBMの迅速な製品改修などをあげた。
一方で、いくつかの課題も顕在化した。特に、「CDC(Change Data Capture)による差分データ連携に関する課題として、特定のバッチ処理でテーブルの大量更新が特定時間に集中することが判明した」と同氏。特定のバッチ処理でデータ更新が集中し、AWSへの連携遅延が発生したのだ。
この課題に対し、IBMによる製品のチューニング対応や、連携処理の多重化などの技術的対策を講じたほか、JENIUSとEventBus/API提供基盤間のデータ連携遅延に関する業務要件を緩和するなどの調整を行った。
「メインフレームの高速性が生むデータ連携の遅延に対し、技術でどこまでカバーし、業務要件としてどこまで許容するかのバランスを、処理ごとに見極めることが肝要です」(西尾氏)

そのほか、JCB社内の体制にも課題が見られた。従来のJENIUS開発では、大規模システムであるがゆえにアプリケーションとインフラの担当領域が明確に分かれており、いわゆる“縦割り”の構造が強かったという。そのため、チーム間の連携には限界があり「システムの性能はインフラ側で考えることであり、アプリケーション側ではわからない」「必要な業務要件はインフラ側で把握していないので対応できない」といった状態が続いていた。
しかし、今回のEventBus/API提供基盤では、アプリケーション領域とインフラ領域での密接なコミュニケーションが必要不可欠だ。そのため、案件の立ち上げ当初からこの点を重視した組織設計を進めたという。結果、役割分担がより柔軟になり、アプリケーションとインフラの両チームがお互いの領域を理解しながら協力できる体制が整った。
JCBはJENIUS本体のモダナイゼーションに先行して、第一弾としてEventBus/API提供基盤を構築した。2025年3月に第一弾システムをリリースし、今後も用途拡大を図る。今後はJENIUSの各サブシステムの特性に応じた段階的なモダナイゼーションを計画しており、ITコストの最適化とアジリティの向上を目的として、構造的な課題に対する解決策の検討を進めていく。
「大規模システムのモダナイズに関する悩みは各社で共通する点も多く、業界を越えた情報共有が重要だと考えています。JCBも各社の成功事例や失敗事例を学び、今後の対応方針を検討しておりますので、情報交換の場などは積極的に活用したいと考えています」(山﨑氏)
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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