日本企業が誤解している“単なるデジタル化”とDXの大きな違い 突破口となる「横をつなぐ人」に必要な力
第2回:改善はできても「改革」ができないJTCは何が問題なのか?
なぜDXだけ失敗率が高いのか? 成功を引き寄せる要素
デジタイゼーションとデジタライゼーションは比較的難易度が低く、情報システム部や外部ベンダーが関わることでプロジェクトは進んでいきます。しかし、DXはそれだけでは進みません。この3つを「同じデジタル化だ」と考えると判断を誤ってしまうのです。DXとそれ以外では、組織体制や意思決定の方法、人材が持つべき知識やスキルがまったく異なります。これこそ、JTCがDXに失敗する大きな要因なのです。
では、3つのデジタル化において求められる能力にはどのような違いがあるのか見ていきましょう。
まず、デジタイゼーションを成功させるためのカギは、業務知識の正確さにあります。紙や手作業で行っていた業務をデジタルに置き換えるためには、現場業務を細部まで熟知している人材が不可欠です。システムの知識やスキルよりも、現場の流れや非効率な手間を可視化できる力が求められます。
デジタライゼーションには、デジタルやデータに関する理解が欠かせません。たとえば、RPAやSaaSの導入、データベース構築といった技術をどう選定・連携させるかを判断するためには、システム部門と業務部門を橋渡しする必要があるため、両方のスキルが必要です。ここで成功するためには、一定のシステム理解と業務設計力が求められますが、難易度はさほど高くないため、組織内にいる人材によって進められることが多いでしょう。
そして、デジタイゼーションやデジタライゼーションに比べると格段に難しいのがDXです。組織がDXの段階に入ると、社内外組織の全体を動かす「横をつなぐ力」の強さが成否を分けます。そのためのキーとなるのが、第1回で詳細を説明した「横をつなぐ人」の存在。異なる部門間の利害を調整し、経営と現場の意思を接続する人です。

“横をつなぐ人”に求められる具体的な役割
これまで説明してきたとおり、DXはその性質上、サイロ化した縦割り組織では推進が難しいものです。サイロ化した状態で進めようとしても、部門横断力が乏しいために協調して動けないケースが多いからです。これを突破するカギこそ、横をつなぐ人とそうした人材が所属する社内横断組織といえます。
横をつなぐ人は異なる部門の“言語”を理解し、それぞれの意図や事情をくみ取りながら共通の目的へと導きますが、大事なのはそのレベル。単なる部門間や人の調整役ではなく“越境活動”を行い、社内の力学や利害を読み解く“社内政治力”をもち、社外のネットワークを活かして新たな知見やリソースを組織に持ち込める行動力を備えた人こそ、真の横をつなぐ人といえるでしょう。
たとえば筆者の所属する住友生命では、あるプロジェクトで商品企画部門とシステム部門が組織文化や保有知識・スキル・経験の違いから、互いの意図を読み取れず進捗が滞ることがありました。この状況を打開するため、システム部門出身でその後営業部門に異動し、顧客や販売チャネル、営業活動にも強い人材をプロジェクトにアサインしたのです。この人物が“横をつなぐ人”として動いた結果、健康データを活用した新しいサービスの導入につながったという事例があります。
DXを推進するためには、デジタルやビジネスの知識に加えて、「誰が何をどう動かすか」という社内外を含めた組織・人の動かし方を含めた「プロジェクトマネジメント」のスキルが必要です。サイロ化した縦割り組織で“横”に弱いJTCでは、これを担う横をつなぐ人がDXの成功要素となるのです。
まとめ
JTCがデジタル化やDXを失敗させないためには、デジタイゼーション・デジタライゼーションとDXの違いを理解し、各段階に必要な人材を用意する必要があります。特に難易度が高いDXの段階では、企業文化・ビジネスモデルにまで踏み込む覚悟が必要です。そして、部門横断的に動ける横をつなぐ人が社内外の各部門をつなぐことで、全社を巻き込むDXの推進力となるのです。
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岸 和良(キシ カズヨシ)
住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長住友生命に入社後、生命保険事業に従事しながらオープンイノベーションの一環として週末に教育研究、プロボノ活動、執筆、講演、趣味の野菜作りを行う。2016年から...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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