
2025年5月、ウルシステムズは米Cognition AIと戦略的パートナーシップを締結し、自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」の国内エンタープライズ市場への展開を発表した。同社は、2025年1月からDevinを自社導入して活用してきた結果、その可能性を高く評価したためパートナーシップ締結に至ったという。では、Devinの登場がビジネスにもたらすインパクト、ひいてはSI産業全体に及ぼす影響はどれほどのものなのか。ウルシステムズの取締役副社長でテクノロジー部門を統括する桜井賢一氏に聞いた。
エンジニアの支援ではなく、「エンジニアそのもの」を提供する
米Cognition AIが開発・提供する自律型AIソフトウェアエンジニア「Devin」は、これまで人間のソフトウェアエンジニアが行ってきた開発作業を高いレベルで自動実行してくれるツールとして、現在世界中で高い注目を集めている。大手企業向けにITコンサルティングサービスを提供しているウルシステムズでも、早くからこのDevinの先進性に注目し、その実力のほどを検証してきたという。
「Devinを初めて見たとき、これは今までのツールとは明らかに違うと感じました」
ウルシステムズ 取締役副社長 桜井賢一氏は、同社の技術調査部門からDevinに関する調査報告を受けた際の印象をこう振り返る。同社では「GitHub Copilot」や「Cursor」など、コーディング支援を行う各種AIツールの評価を早期から行っていたが、それらのツールが「職人に便利な道具を渡す」役割だとすれば、Devinは「職人そのものを投入する」ような感じだという。
実際にDevinを複数の開発プロジェクトに投入し、試験的に利用してみた結果、「これは実際の開発現場でも十分に使える」と確信。そこで自社での利用に限らず、より多くの日本企業にその価値を届けるべく、2025年5月に開発元のCognition AI社とのパートナーシップ締結に踏み切った。
両社の提携に至った背景やその狙いについて、桜井氏は次のように説明する。
「Devinに関する情報をネットで検索すると、小規模な環境での利用例が多くヒットするのですが、私たちはこれまで大規模システム案件を数多く手掛けてきた経験から、『このツールは、小規模より大規模のほうが導入効果を発揮できる』と確信しました。そこで、この考えをCognition AI社に伝えたところ、『ぜひ一緒に大規模案件を開拓していきたい』という返事をいただき、最終的に提携へと至りました」

この提携の発表以降、同社のもとには多くの企業からDevinに関する問い合わせが寄せられているという。現在同社はDevinの専任チームを設けて、顧客企業に対するDevinの導入支援にあたっているほか、桜井氏自身も積極的に顧客企業のもとを訪れ、Devinの可能性について説明を行っている。
人材不足と品質担保の課題を同時に解決する「予測可能な開発」
現在多くの企業が“IT人材”不足に頭を悩ませる中、Devinは人間の開発者に代わってAIエージェントがシステムやアプリケーションを開発することで、人材不足の問題を一気に解決できるソリューションとして大きな期待を集めている。その一方で、これまで人間が行ってきた作業と同等の品質をAIが担保できるかどうか、懸念する声も少なくない。
しかし桜井氏は、こうした懸念や不安よりも、Devinを導入したメリットのほうがはるかに上回ると語る。
「人間ならば良いものが作れるかというと、必ずしもそうではありません。人間のスキルには個人差がありますし、人材の流動化も激しいため、一定のスキルを備えた人材を安定的に確保することはますます難しくなっています。しかしDevinを使えば、少なくとも『きちんと指示を与えれば、正しい結果を出せる開発リソース』を確保できるのです」
この「開発リソースの予測可能性」が得られることで、プロジェクトを管理するマネジメント層や、システム開発を発注する側にとって、「プロジェクトの行く末を予測しやすくなる」「システム開発全体のリソース計画が立てやすくなる」という大きなメリットが生まれる。特に大規模な案件ほど、プロジェクトの変動要素を少しでも減らせることは、リスクマネジメントの観点からも大きなメリットになるだろう。
また、システム開発の内製化を進める上でも、Devinは大きな可能性を秘めているという。これまで社内のIT部門に十分な開発リソースがないため、やむなく時間とコストをかけて外部ベンダーにシステム開発を委託せざるを得なかったようなケースでも、Devinを社内利用できる環境さえ整えば、業務部門の要望を直接Devinに伝えて、ごく短期間のうちにシステムの開発や改修を行えるようになる。
さらにコストや投資対効果の点においても、Devinには大きな効果が期待できると桜井氏は語る。
「Devinのようなツールをうまく使いこなせるようになれば、(DevinのEnterpriseライセンスの月額相当である)2人月分のコストで10~20人月分の成果を上げることも可能になるでしょう。また、これまで1ヵ月かけて開発していたものが1週間で完成できたり、半年かかっていた開発が3ヵ月でできるようになったりすると、サービスのリリース期間を短縮でき、ひいてはビジネス全体のスピードアップに大きく貢献できます」
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吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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