今年の夏から大企業中心にクラウド導入の動き
クラウドは新しい局面を迎えつつある。昨年までは目新しさも手伝って人々の関心を獲得している部分も大きかったが、今年に入ってからは現実的な利用を検討する企業も増えてきているようだ。パイロット運用を終えた大企業が夏ごろから具体的な運用を始めるのではないかと見る向きもある。
では、実際の運用に着手するにあたって、どのような点を踏まえておくべきだろうか。これまではメリットや技術的課題などのマクロ的な視点から情報収集をしていた人も多いだろう。しかし、何らかの製品やテクノロジーを導入する場合には、実装や運用などのミクロ的な観点も必要になる。既存システムとの整合性をどのように担保するか。いかにして稼働率やセキュリティーのギャップを解消するか。運用体制はどのように切り分けるのか。
ここで有力な手がかりとなるのが「サービスマネジメント」という考え方だ。もちろん、ユーザーのニーズを充足するITサービスを安定的・継続的に提供するための仕組みはクラウドに限って必要となるものではない。しかし、システムや運用のあり方が大きく様変わりしつつある現在、サービスマネジメントという競争優位性の源泉を自社に取り入れるチャンスであることも事実だ。このような事情を踏まえ、IBMが今春開催するのが「Pulse Japan 2010」である。
国内での認知度はまだまだ高くないものの、早くからその有用性を提唱してきたIBMは、サービスマネジメントを主題としたカンファレンスを過去開催してきた。2008年からはそれらを引き継ぐ形で、世界各国で「Pulse」を開催している。
今回のPulse Japan 2010は、去る2月21日から24日に米国で開催されたPulse 2010を国内向けに再構築したもの。「クラウド時代到来。決め手は“サービスマネジメント”」というサブタイトルにあるとおり、現実味を帯びてきたクラウドの企業利用はサービスマネジメントを考える絶好の機会とのメッセージだ。
クラウド実践におけるポイントを最新の構築・活用事例を交えて解説
昨年よりも規模を拡大して、合計7トラック合計29セッションの構成となった今回。その設計に当たっては「関心の度合いに応じて、十分な情報収集ができること」を配慮したという。自社との関係性を模索している段階であれば適用領域や活用方法などに関するアドバイスを、すでに構築を検討している場合は実践的なノウハウやユーザー事例を提供する。
例えば、クラウドの利用そのものを検討している人々を対象としたトラックA「クラウド構築に向けた戦略的アプローチ」では、三菱総研DCSが自社で実施したITサービス基盤のクラウド化戦略を紹介。また、IBMのコンサルタントによる新たなビジネス・モデルの提案なども用意されている。
実際にクラウドの構築を考えている場合は、トラックB「クラウド構築を実現する実践的手法」が良いだろう。兼松エレクトロニクスによる事例紹介や、製品やサービス選定のポイントを解説するセッションが並ぶ。
パブリック・クラウドに関心がある人向けにはトラックC「広がるIBMのパブリック・クラウド」が準備されている。IBMといえばプライベートという印象も強いが、実際にはグローバル・レベルでパブリック・サービスを提供している。ビジネス課題の解決方法などが聞けそうだ。
その他にも、KDDIによる最新ネットワーク管理事例や、IBM Maximo EAM(企業資産管理ソリューション)を活用した旭エレクトロニクスのCO2削減事例、メインフレームにおけるクラウドの取り組みなども紹介される予定だ。
特別講演には、米国IBMの中でもクラウドの第一人者であるクリストファー・クロックナー氏が来日。最先端のクラウド・データセンターにおけるIBMの実績を紹介する。昨秋に開催されたPulse Japan 2009 Autumnではオール・イン・ワン型プライベート・クラウド・ソリューションの最新版「IBM Cloud Burst V1.2」が公開されたが、今回も何らかの発表を期待できるかもしれない。
いずれのセッションも、サービスマネジメントという観点を含めているのが今回の特徴でもある。実際にシステム導入を検討する際に必要となるのが「運用」。運用面を考慮したシステム利用の設計や構築、あるいはサービス利用こそが今後の企業ユーザーの一番の関心事だろう。構築から運用まで現実的な企業クラウド活用の勘所を押さえるための一日となりそうだ。