【LIXIL岩﨑氏×JTB黒田氏】基幹システム刷新“真っ只中”のJTCリーダーに学ぶ、成功への布石
複雑化したシステム構成が足枷に……「結局は人がすること」だから重視する意思疎通

「このままでは事業の成長どころか、事業が維持できなくなる」──LIXIL 常務役員 Digital部門担当 岩﨑磨氏の言葉は、多くの日本企業が直面する現実を表している。「2025年の崖」に象徴されるように、歴史ある日本企業の多くが、システム耐用年数を大幅に超えるレガシーシステムを使い続けている。環境変化が激しい昨今、事業変革のニーズがあっても旧態依然のシステムが足枷となり、企業の競争力を削いでいるのが実情だ。「EnterpriseZine Day 2025 Summer」では、こうした課題に真正面から対峙するITリーダーのスペシャル対談が行われた。DXプラチナ企業に選定され、基幹システム刷新プロジェクトに再挑戦するLIXIL。そして、2030年に向けて「基幹システムトランスフォーメーション」を進行中のJTB。レガシーシステムのモダナイズを成功に導く「推進力」の正体とは何か。2人のリーダーの生々しい体験談から、その答えを探っていく。
もう先送りできない! JTCのモダナイズは“待ったなし”に
最初のテーマは、なぜモダナイズが必要で、その先に何を見据えているのか。
LIXILが現在運用しているシステム数は2,000を超え、国内では依然として3基のメインフレームと1基のミニメインフレームが主軸事業を担っている。これらの膨大なシステム群を約2,000人のIT部門が管理している状況だ。

※講演資料から一部を抜粋
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同社は2011年に国内の主要な建材・設備機器メーカー5社が統合して誕生した経緯があり、グローバルに事業を展開している。買収した会社がそれぞれメインフレームやSAPベースのERPを持っているため、システム構成は極めて複雑になっている。岩﨑氏は、「このままの状態で属人化した運用やシステムの老朽化を乗り越えていくのは難しい」と危機感を示す。

一方、113年の歴史を持つJTBも独自の課題を抱えていた。同社は過去に分社化と再統合を経験し、その過程でシステムの複雑化した経緯がある。現在「ONE JTB」として統合を進めているが、分社時代の影響でシステムのサイロ化が深刻な問題となっているという。黒田氏が、2023年の入社時にリストアップした課題は実に11項目に及ぶ。

最も深刻なのは「経営の高度化とビジネスポートフォリオの変化に耐えうる財務・会計基盤の構築が急務」という点だ。同社は創業時の旅行代理店から「Travel Company」、そして現在の「Solution Company」へと事業ドメインを拡大してきた。今や個人の旅行者だけでなく、法人や地方自治体、DMO(観光地域づくり法人)との取引も増え、「交流創造事業」として事業領域を広げているのだ。
しかし、「システムの複雑化により変化への対応に長時間を要し、長い期間がかかり、ビジネス機会を逸している現状がある。既存業務システムの保守・運用コストが高止まりし、成長に向けた攻めのIT投資に十分なリソースを配分できてない」と黒田氏。これは多くの日本企業に共通する悩みだろう。
特に深刻なのは、各システムがサイロ化していること。「価値あるデータや機能があっても十分に活用できていない。データが各システムに散在しており、集約するだけでも多大なコストがかかる」と黒田氏は話す。
JTBは、2030年に向けて、3つのフェーズでモダナイゼーションを進めている。フェーズ1のインフラのパブリッククラウド化は2024年中にほぼ完了。現在はフェーズ2として、国内のバックエンドシステムのマイクロサービス化を推進中で、疎結合化したシステムを構築中だという。黒田氏は「その基盤さえできれば、スケールしていける形もできた」と手応えを語る。フェーズ3では、いよいよ旅行商品の企画・開発、販売管理など事業の核となるシステムの再構築に取り組む予定だ。事業の中核ではなく周辺システムから段階的に基盤を構築することで、リスクを抑えながら確実な成果を積み重ねる手法といえる。
両社がモダナイズの先に見据えるのは、変化に柔軟に即応できる企業体質の獲得だ。基幹システムの刷新は、企業として持続可能な成長を実現するための基盤づくりに等しい。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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