情シスが主語になった言説は、すべて間違っている
──なぜCIOや情報システム部門が重視されず、存在が薄いと言われているのでしょうか。
長谷川秀樹:情シスがなぜ下請け扱いされるのか。それは簡単です。ユーザー部門の言う通りに作るからですよ。確かにユーザー部門は喜ぶし、ベンダーもそっちのほうが楽。要件定義書の通りに作ればいいだけですからね。それで、問題が起きたら「言われた通りに作っただけです(仕様通りです)」と責任逃れ。これじゃあ、情シスに価値があるなんて思われるわけがない。
友岡:そもそも情シスが主語になった言説は、すべて間違っています。主語になり得るのは常に「事業」。事業にはお客さまがいて、お客さまの困り事を解決することで事業が成り立っている。この中に情シスが入っていけるかどうかがすべて。「情シスとしてはこう思う」ではなく、「お客さまの困り事を解決するには、こうすべき」という順番で語れるようにならなければいけません。
虻川:いま友岡さんの言ったこと、とてもよく分かります。一度トップが腹を括ると、ものすごいスピードで物事が動くことがあるんです。
ちょっと立場は違いますが、私が8年前に前職でAI企業を立ち上げたころ、いろいろな会社のCIOや部長さんから「AIで何かやってほしい」というご相談を多くいただきました。経営からそのようなオーダーが来ていると。「AIは目的でなく手段です。事業における課題を解決するためやお客様の困り事を解決するためにAIを活用しないと、いたずらに時間と費用をかけることになり結果も出ませんよ」と申し上げると、経営層にも結構響いた会社さんは多かったようです。今後のCIOは経営者とシステム面だけではなく議論できる視点と姿勢が欠かせませんよね。
──主語が「事業」になると、情シスの仕事の進め方は、どう変わるんですか?
その1:手柄は事業部門に渡せ
長谷川:基本、手柄は事業部門に渡す。何か改善したら、「事業部長のご指示で、あの課題を解決できました」と。社長も「お前の指示か、やるじゃないか」となる。事業部長は「長谷川はええヤツや」となるから、次から協力してくれる。実際に結果が出てるんだから、情シスとしてはそれでいい。
業務システムもAIもセキュリティも、情シスだけで完結する案件なんて、もうないじゃないですか。そこで情シスの論理だけ振りかざしたら、そりゃ向こうは気に入らない。バランスをとってやっていくからこそ成立するんです。
その2:無邪気に要件を聞いてくるな
長谷川:次に、事業部門に対して「どうしましょう?」と無邪気に質問しない。少なくとも、「A案とB案があり、A案を推奨します」くらいは言えるように準備してから行くこと。もっと言えば、「A案がいいと思いますが、どちらでも進められます」ぐらいの感じで。
経験が少ないと初めは難しいかもしれませんが、だからこそ事前に準備するんです。なぜA案がいいのか、データを揃えて、他社事例も調べて、丸腰で行くな。勝ち目のある議論をして、なんにしろ勝ち取ってこいと。
その3:合理的な理由なき慣習に切り込め
長谷川:もう一つ。事業部門は、既存業務については鬼のように詳しい。でも、「なぜそうしてるんですか?」と聞くと、95%は「前からそうだから」。これには大抵合理的な理由がない。そこに切り込むんです。たとえば、「でも、お客さまにとってはどうなんですかね?」と聞いてみる。お客さまの困り事が解決されていないなら、変えるべきでしょ、と。
友岡:そこで「事業が主語」に戻る、と。
長谷川:そういうこと。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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