セールスフォースの「Agentforce 3」の真価:MCP、可視化、200超の業種別テンプレートで何が変わるのか?
セールスフォース 「Agentforce 3」会見レポート
セールスフォースが2025年7月に発表したAgentforce 3では、既存顧客からの要望を反映した3つの強化の柱が注目される。AIエージェントのパフォーマンス監視を可能にするCommand Center、Manufacturing CloudやFinancial Services Cloudなど200超のインダストリー特化型スキルテンプレート、そしてMCPサポートによる相互運用性の向上だ。AgentExchangeを通じた信頼性の高い外部連携や、自然言語によるガードレール設計も実現し、企業のビジネスポリシーに準拠したAIエージェント活用を推進する。
Agentforce 3が重視した3つの強化の柱
2025年7月28日、セールスフォースはプレス・アナリスト向け説明会を開催し、Agentforce 3の強化ポイントを解説した。最初に登場した専務執行役員 製品統括本部 統括本部長 三戸篤氏は、日本における労働力不足の問題が深刻さを増していると指摘し、その解決にAgentforceが貢献できると訴えた。

2024年9月に発表して以来、セールスフォースは、Agentforce 2.0、Agentforce 2dxと、Agentforceの強化を続けてきた。その間、導入企業数も増え続けており、2025年6月に発表した最新のAgentforce 3は、既存顧客の要望を反映して強化したものになる。三戸氏は、Agentforce 3における強化ポイントは以下の3つの柱で説明できるとした。
- 人とAIエージェントが協働するための環境の可視性を高めること
- ビジネス価値をできるだけ短期間で得られるよう、200超のインダストリー特化型のスキルテンプレートを提供すること
- MCPをサポートし、AIエージェントの実行範囲を拡張する相互運用性を担保すること
この3つの詳細を、三戸氏に続いて登壇した製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアプロダクトマーケティングマネージャー 王小芬氏と同 プロダクトマーケティングディレクター前野秀彰氏が解説した。
まず、1つ目の柱の可視性とは、AIエージェント構築後のパフォーマンスを監視し、包括的に可視化することを指す。企業が日々の業務でAIエージェントの活用を進めるほど、より良く使うために改良を加えたくなる。AIエージェントのパフォーマンスに問題がないか、それをどう確認すればいいか、問題がある場合は改善したい。「既にAgentforceを利用中のお客様から、パフォーマンスの可視化の要望が高まってきた。全体を可視化する環境があることで、AIエージェント活用を検討中の企業に対して、導入に伴うハードルを下げることにもなる」と王氏は述べ、そのためのソリューションとしてAgentforce Command Centerを紹介した。

Command Centerは、AIエージェント専用のノーコード開発ツール「Agentforce Studio」に組み込まれている。Command Centerを立ち上げると、ダッシュボード上で現在運用中のAIエージェントに関する各種メトリクスを確認できる。営業向けのAIエージェントの場合は、商談創出にどれだけ貢献できたか、見込み客をどれだけ獲得できたのか、平均の商談サイクルなどを確認できる。カスタマーサポート向けのAIエージェントの場合は、顧客満足度、平均解決時間、自己解決率などのメトリクスを確認できる。

パフォーマンス最適化に役立つAgentforce Command Center
Command Centerの画面では、トピック(対応できる分野)ごとの品質スコアを確認できる。例えば、旅行会社のカスタマーサポートのAIエージェントのパフォーマンスを調べていた時、トピック「キャンセルリクエスト」の品質スコアが低いことに気付いたとする。調べてみると、顧客が日程の変更を示唆しているにもかかわらず、即座にキャンセル処理に誘導していた。問題がわかったので、Agent Builderというツールを利用し、改善を行う。
具体的には、キャンセルリクエストのトピックに「お客様の予定が変更になった場合は、予定の変更も含めて確認してください」と、新しい指示を追加する。そして、これまでの指示内容と矛盾がないかを検証し、問題がなければ設定を保存する。続いてテストを行う。同じ質問を投げかけると、以前はすぐにキャンセル処理に誘導していたが、新しい指示の追加後は、「予定の変更も含めて日程変更も可能です」という回答を確認できた。テストが無事終了すると、本番業務にデプロイする。その後、改めて品質スコアを確認し、スコアが改善していることを確認できた。
Command Centerを利用することで、AIエージェントのパフォーマンスの可視化、問題の特定、改善、テスト、デプロイまでのライフサイクル全体をAgent Studioの中で完結できるようになった。ソフトウェアと同様に、AIエージェントも一度作ったからといって、作りっぱなしにはできない。最適化を繰り返し、パフォーマンスを高めていけるよう、Command Centerは、ライフサイクル全体を可視化し、最適化を促す仕組みを提供する。さらに、王氏は、Data CloudがOpenTelemetry(OTel)への準拠を進めていることも明かした。この対応が完了すると、同様にOTelに準拠しているDatadogやSplunkのような製品環境で、AIエージェントを含む企業のシステム環境全体の可観測性を高めることが可能になる。
また、Agentforce 3の2つ目の柱が、短期間での価値実現になる。これまでも営業向け、カスタマーサポート向けなど、汎用的なスキルライブラリーを提供していたが、今回、新しく200超の業種特化型の事前定義済みのスキルライブラリーを用意した。スキルとは、AIエージェントが対応できるアクションのことである。Manufacturing Cloud、Automotive Cloud、Financial Services Cloudなど、インダストリークラウド製品に統合した状態で提供することで、より業務内容に沿った拡張が可能になる。

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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