2025年3月に創業100周年を迎えた中外製薬は、ロシュ・グループの一員として創薬をつづける傍ら、経済産業省などによる「DXプラチナ企業2023-2025」にも選定されるなど、“DXのリーダー”と呼ばれることも少なくない。そんな同社は今、製薬業界における構造的なコスト増、そして生成AIの浸透による「クラウド費用の増加」という課題に直面している。2025年11月に開催されたイベント「Apptio Innovation Day」では、同社がいかにしてマルチクラウド環境のコスト最適化を図り、FinOpsを全社的な戦略へと昇華させようとしているのかが語られた。
創薬コスト増とAI需要の波──3大クラウド活用で直面した「可視化の欠如」
国内トップクラスの医療用医薬品メーカーであり、ロシュ社との戦略的アライアンス、独自の創薬技術を強みとする中外製薬。2024年度のロシュ社における営業ポートフォリオでは、売上の約25%を占めるがん治療・血友病領域において、中外製薬が開発した複数の治療薬が主力製品となるなど、グループ内でも存在感を示している。
2020年からDX戦略『CHUGAI DIGITAL VISION 2030』を掲げ、デジタルを活用した創薬プロセスの変革に取り組む同社だが、その背景には製薬業界特有の切実な課題があった。
「IT費用の増加は定着化しており、インフレーションの影響も大きい。加えて、創薬にかかるコストは構造的に増加傾向にあります。世の中にない物質を探すことは年々難しくなっており、開発期間の長期化や臨床試験の複雑化により、研究開発費は増大しつづけています」(金奎一氏)
(提供:日本アイ・ビー・エム株式会社)
さらに「生成AI」の登場が拍車をかけている状況だ。AI活用によるクラウド利用が急増しており、「大手クラウドプロバイダーからも、AIを統合したソリューションが次々と出ている状況」だと金氏は話す。
中外製薬においては、DXのために共通クラウド基盤「Chugai Cloud Infrastructure(CCI)」を構築しており、メイン基盤としてAWS、サブ基盤としてMicrosoft製品との親和性が高いMicrosoft Azureと、研究データ分析に特化したGoogle Cloudを活用するマルチクラウド構成だ。各プロバイダーの強みを活かし、ワークロードに応じて最適なプラットフォームを選択できる体制を整えた一方、新たな課題が浮上した。それが「コスト管理の複雑化」である。
「AWS、Azure、Google Cloudそれぞれが独自の管理ツールを提供していますが、統一された形で管理することは非常に困難でした。『どの部門が、どのプロジェクトで、どれだけのコストを使っているのか』という全体像が見えていなかったのです」(金氏)
当時、同社が直面していた主な課題は以下の3点に集約される。
- 可視化の欠如:マルチクラウド環境でのコストを統一されたビューで管理できない
- 最適化の複雑さ:プロバイダーごとに異なる料金体系や割引制度があるため、最適な判断を下せない
- ガバナンスの不在:誰がコスト管理の責任を持つのか、運用ルールが明確でない
これらの課題を解決し、“コストの肥大化”を抑制するために導入されたのが、マルチクラウドのコストを一元管理できる「IBM Cloudability」だ。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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