FinOpsをトップダウンで推進 見えてきた「6割のターゲット」と「現場の壁」
中外製薬におけるIBM Cloudabilityの導入プロジェクトは、約3年前(2022年頃)に開始された。当時はまだ社内にFinOpsの専任担当者がおらず、インフラエンジニアと予算管理者、そして外部コンサルタントが主導する形でスタートしている。
「当時は日本に十分なサポート体制がなく、言語の壁や時差の調整など、苦労も多かったと聞いています。一方で、追い風もありました。当時、IT部門がすべてのIT費用を一元管理していたため、トップダウン型での全社的な意思決定が可能だったのです」(金氏)
IBM Cloudabilityの導入後は、複数のクラウドサービスを一元管理することで、「リソースの最適化」や「クラウドコストの比較分析」が可能となり、定量・定性の両面で成果が出始めている。
- 定量的効果:未使用リソースの特定・削除、インスタンスサイズの適正化、予約インスタンスの活用などに着手できるようになった
- 定性的効果:部門間のコスト配分を明確化でき、各部門がオーナーシップを持ってコスト管理に取り組めるようになった
数ある導入効果の中でも、金氏が特に恩恵を受けていると挙げたのは、FinOps施策における「適切なターゲティング」だ。
「全社のクラウド費用のうち、現在はIT部門の利用が多く、次いでR&D(研究開発)部門が利用していることを可視化できました。その上で、当社の中核であるR&D部門に対し、今後どのようにアプローチすればコスト効率を最大化できるのか。優先度をつけて施策を講じられるようになったことは非常に大きなポイントです」(金氏)
つまり、単なるコスト削減ではなく、どの部門や領域にコストを配分すべきかという“戦略的な判断”を下せるようになった。
一方、金氏は「まだまだ解決すべき課題がある」と率直に語る。FinOpsのマチュリティ(成熟度)レベルを評価すると、可視化・最適化・オペレーションの各フェーズで「現場の壁」に突き当たっていたからだ。
たとえば、マルチクラウド環境での集計ルールの設定は難易度が高く、部門ごとに求められるKPIやデータの粒度も異なるため、ステークホルダーごとの“ビュー作成”には工数を要する。また、コスト最適化においても「技術的な最適化」と「ビジネスニーズ」のバランスをどう取るべきかという“意思決定のためのフレームワーク”が不足している点や、プロバイダーごとの割引オプションの組み合わせを手動で調整することに限界も感じているという。
「IBM Cloudabilityを使いこなすためのハードルも高く、単にツールを入れたからといってすべてが解決するわけではありません」(金氏)
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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