東京郊外のベッドタウン昭島市、人口約11万人の「中規模自治体」の強みを活かしてDXに挑戦
#6:東京都昭島市 | 規模のメリットや多摩地区特有の連携を活かす
自治体DXの好事例の最終回として、昭島市を取り上げる。昭島市は東京都の郊外に位置する中規模自治体であるが、デジタル庁の実証実験に幾度も手を挙げるなど自治体DXに前向きに取り組んでいるのが特徴だ。人口規模のメリットや多摩地区特有の緊密な連携を活かしたDX推進も行っており、いわば東京都の市町村ならではの取り組みである。それらの進め方について、昭島市 総務部 デジタル化担当部長の小林大介氏に様々な話をお聞きしたので紹介する。
ガバクラの先行事業への挑戦で、庁内に意識変革の土壌が整う
昭島市は人口11.6万人の中規模自治体であり、東京都の郊外(多摩地区)に位置するベッドタウンである。市全体に住宅街が広がっており、「住みよさランキング2020」の快適度部門で1位を獲得したり、「首都圏の水がおいしい街ランキング」で1位になったり、「自治体子育てランキング2023」で全国56位になるなど、都心部に勤めるビジネスパーソンやその家族が穏やかに暮らす街だ。
その昭島市が、自治体DXの分野でホットな活動を続けている。その中心的な人物が、昭島市 総務部 デジタル化担当部長の小林大介氏。小林氏は新卒で昭島市に入庁した後、長くシステム部門で活躍してきたが、一貫してアグレッシブな姿勢でプロジェクトを推進してきたという。今般、昭島市を訪問して小林氏へインタビューする機会を得たので、本連載のテーマである「人と組織」の観点から成功の秘訣を聞いてきた。
昭島市のデジタル化・DXを語る際、まず特筆すべきはデジタル庁公募案件への応募である。2022年にデジタル庁が公募した「ガバメントクラウド先行事業」へ応募。結果は残念ながら落選だったが、その姿勢は今も変わらないと小林氏は言う。
「デジタル庁が2021年9月に発足して、それに合わせる形で昭島市でも2022年にデジタル担当を設置しました。何か目玉のプロジェクトをやりたいと考えていた矢先だったので、迷わず応募しました」(小林氏)
しかし、小林氏はその落選に気落ちすることなく、すぐさま翌年度の「ガバメントクラウド早期移行団体検証事業」にも応募して、第1回公募の8団体の一つに採択された。この継続的な応募は、標準化の準備作業の早期着手による補助金確保および安全なシステム更新が表向きの目的であったが、小林氏の真の目的は「職員の意識改革」であったと振り返る。
「この事業に応募するには、全庁を巻き込んだ事前調整が必要でした。最初のうちは『ガバクラって何?』『標準化って何?』『何のためにやるの?』と他人事のように言っていた職員たちが、国から示されたシステム要件定義を確認するうちに、徐々に我が事として意識が高まっていきました。最終的には、標準化により自治体業務を大きく変革するんだという意識を持つようになりました。そのことがきっかけで、組織として自治体DXを受け入れる土壌ができたと考えています」(小林氏)
昭島市はその後、様々なデジタル化・DXの施策に取り組むが、この最初の意識変革があったからこそ、全庁が一丸となってデジタル化・DXを推進することができたという。
あわせてDX推進の組織文化を支えたのが、副市長(CIO)早川修氏のリーダーシップと総務部長 山口朝子氏のサポートである。副市長が自治体DXの牽引役を担うことで、庁内では「DXは必ずやるものだ」という雰囲気を作り上げることができた。デジタル人材育成や業務改革を進めるうえで総務部長の後押しも不可欠。多くの自治体では、DXを推進する際、現場の管理職や古参の職員が抵抗勢力になりがちであるが、昭島市ではトップダウン型のアプローチがその障壁を打ち破る原動力となったという。
「行政組織の要のポジションに位置する2人がDX推進を後押ししてくれるので、非常に有り難いですね。2人の後押しがあるから、私も安心してプロジェクトを進めることができます」と小林氏は笑顔で語る。
昭島市は、職員の意識改革というボトムアップ型のアプローチと、組織長のリーダーシップというトップダウン型のアプローチの両面で組織変革を図っており、これがまず一つ目の成功の秘訣と言えるだろう。
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角田 仁(ツノダ ヒトシ)
1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...
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