95%の組織がAI投資“ゼロリターン”……日本の「経営」「政策」2視点で捉えるAIガバナンスの勝ち筋
マッキンゼー・デジタル、Sakana AI、三菱電機、AISI、デジタル庁……各業界のキーマンが激論
各省庁にCAIO設置も:行政業務の99%を自動化した活用例とは
デジタル庁の楠正憲氏は、政府におけるAI活用の実践状況を紹介した。2023年4月にOpenAI社の最高経営責任者 サム・アルトマン氏が来日し、5月のゴールデンウイーク明けに関係府省庁の申し合わせで生成AIの利用についてNISCのガイドラインに基づいて規律していくことが決定した。「当時は選択肢に海外の推論技術しかなく情報漏えいが課題だったが、その後国内の推論技術も出始めたため、機密情報の取り扱いを整理した」と同氏は振り返る。
2025年5月にはデジタル庁から「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」が発表され、各省庁にAI統括責任者(Chief AI Officer:CAIO)を置くガバナンス体制が打ち出された。同庁では2025年度にAIの活用環境をガバメントクラウド上に内製し、5月から職員に提供している。活用状況について楠氏は「7~8割の職員が利用している。AWSのオープンソース環境を職員が手直しし、法律に特化したディープリサーチ機能や庁内システムのマニュアルから回答する環境を提供している」と説明する。
汎用的なAIの活用環境だけでなく、個別ユースケースへの展開も進んでいる。具体的には、「X(旧Twitter)の誤情報に注意喚起のリプライを送る仕組みのチューニングや、パブリックコメントの分類支援、マイナンバーの氏名を突合する用途においてディープラーニングを活用したアルゴリズムの開発など、知見をオープンソースで還元している」という。自治体システムの標準化においては、163万文字の外字を7万文字の標準文字に同定する作業をAIで支援し、約98.6%を自動的に候補提示できるようになったとしている。
一方で、住民向けサービスの実装においては課題が見られると楠氏。「どこまでテストすればリリースできるのか、住民向けサービスのテスト範囲が定まっていない。職員向けサービスならリカバリーも可能だが、住民向けとなればそうもいかない。情報システムとして完璧にテストするのか、それとも窓口職員の採用と同じようにエスカレーションプロセスで対応するのか、線引きが難しいところだ」と課題を指摘する。
AI主権についても慎重な見方を示す。「日本で学習させれば“日本びいき”のAIができるという単純な話ではない。賢ければ良いのではなく、コンパクトなモデルでリスクを予測しやすい方が使い勝手が良い場合もある」と述べた。
“完璧主義”ではなく、リスクの許容範囲を確立すべし
セッションの最後のテーマである「マルチステークホルダーアプローチ」においては、民間・政府・研究機関の連携の重要性が議論された。
村上氏は企業への期待として、ドメインに特化したAI活用の取り組みを挙げる。「これは国主導ではできないので、業界ベースで非競争領域として協力してほしい」と訴えた。
一方、羽深氏は「リスクの許容範囲」について議論の必要性があると強調する。
「たとえば、自動運転車は平均的な人間ドライバーより90%以上安全で、年間2,500人もの交通事故死者数を250人に減らせる可能性がある。しかし、『年間200名以上の命を奪うかもしれない機械』を承認する責任を誰が取るのか。完璧性を求めるのではなく、どこまでのリスクなら許容できるかを社会で合意していくことが重要だ」(羽深氏)
楠氏は、ChatGPTが登場したあとの状況について「Windows 95が出た後に似ている」とした。当時はWindows 95の拡大にともなってサイバー犯罪が増え、プロバイダー責任制限法や不正アクセス禁止法が成立していったことを振り返り、「自らにとって“都合の悪い話”でもマルチステークホルダーと情報共有しながら再発防止に結びつけていく必要がある」と、インシデント共有の重要性を強調した。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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