「ITを知らない経営層」が投資を判断する実態……日本の製造業が手本に? 失敗しないIT戦略の描き方
第1回:なぜ日本のITプロジェクトはうまくいかないのか? 生成AI時代でも変わらない本質とは
プロジェクト成功のカギは“効率的なものづくり”の精神?
日本企業の労働生産性が低いということは多くの人が認識していることでしょう。しかし、労働生産性には「付加価値労働生産性」(1人の雇用者が1時間でいくら稼ぐのかを測る数値:稼ぐ力)と「物的労働生産性」(1人の雇用者が1時間でどの程度の生産量を実現できるのかを測る数値:作る力)があり、この2つを分けて見ると大きな違いがあることに気がつきます。
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付加価値労働生産性について、日本は大きく諸外国に後れを取っていますが、物的労働生産性については米国に次ぐ水準となっています。日本企業はモノをより多く効率的に生産することについてはこれまでも適切な投資を行ってきており、それは実際に事業の成果に結びついていることが見て取れます。つまり、工場を建てたり、機械に設備投資をしたりする際の考え方をIT投資にも適用すれば、付加価値労働生産性として事業の成果に結びつけることが可能になるのです。
たとえば、工場を建設する際は、その投資が成果に結びつくようにするために「どのような商品を製造するか」「工場の設計や規模はどうするか」「工場をどのように運用するか」「マーケティングや広告はどのように行うか」などをトータルで検討したうえで中長期の計画を作り、いつ損益分岐点を迎えるかを冷静に見据えたうえで、投資を行うかどうかを決めるでしょう。こうした考え方や進め方をITにも適用すればよいのです。
折しも、生成AIの急速な普及によって、ITを活用した事業変革のハードルはかつてないほど下がっています。しかし、ツールが手に入りやすくなったことと、投資が成果に結びつくことは別の話です。工場の設備が安くなったからといって、事業計画なしに工場を建てる経営者はいないでしょう。IT投資にも同じことがいえます。
IT戦略の「地図」を描くために知っておくべき基本認識
自社に大きな富をもたらすための工場への投資として中長期の計画を立案するように、IT投資にも中長期の計画を立てて着実にプロジェクトを進めていくことが必要です。これはつまり、従来のように単年度予算の購買プロセスで現状維持や単発の「思いつき」で行き当たりばったりに進めるのではなく、適切なIT戦略の「地図」を描いたうえで進めるということです。
もちろん、商品を製造する工場とITプロジェクトでは、性格が大きく異なる部分もあります。ITプロダクト(Webサービス、アプリ、システムなど)は情報技術を組み合わせて作られるため、それらへの正しい理解、必要なチーム/人材、計画の立案/調整方法について、「コツ」としての基本認識や進め方を理解しておくことが欠かせません。
そこで本連載では、『IT戦略の基本が全部わかる本(翔泳社)』の構成に準じて、計8回の記事でそれらの基本認識や進め方をご紹介します。
連載概要(予定)
- 第2回:なぜITで稼げないのか?──As-Is/To-Be分析と投資対効果の可視化
- 第3回:なぜITプロジェクトは高いのか?──人材単価の構造と契約形態の使い分け
- 第4回:なぜ良いチームが見つからないのか?──避けるべき人材の見極めとコアチーム組成
- 第5回:なぜ「不適切なベンダー」が入り込むのか?──調達汚染の予防・検知・対策
- 第6回:なぜ思い通りのシステムを作れないのか?──KPIツリーから逆算する要件定義
- 第7回:なぜプロジェクトは遅延してしまうのか?──「良い遅延」と「悪い遅延」の見分け方
- 第8回:IT戦略の地図を自ら描くために──連載の総括と最初の一歩
これらの基本認識や進め方は、生成AIが今後ますますビジネスに浸透していく時代にも本質的なものとして変わることはありません。むしろ、生成AIによってビジネスの変革スピードが加速し、「それらしいもの」が簡単に手に入るようになる状況では、これらの基本認識と進め方を知っているかどうかが成果に大きく影響するようになるでしょう。
IT戦略の地図を描くことは、特別な専門知識がなくても始められます。まず必要なのは、「自社のITは事業に貢献しているのか」という問いを意思決定者自身がもつことです。次回は「なぜITで稼げないのか?」をテーマに、その問いに答えるためのAs-Is/To-Be分析と投資対効果の可視化手法をご紹介します。
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- この記事の著者
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橋本 将功(ハシモト マサヨシ)
パラダイスウェア株式会社 代表取締役
早稲田大学第一文学部卒業。文学修士(MA)。IT業界25年目、PM歴24年目、経営歴14年目、父親歴9年目。 Webサイト/Webツール/業務システム/アプリ/組織改革など、500件以上のプロジェクトのリードとサポートを実施。「プロジェクトマネジメントの民主化」の実現...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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