なぜデータベース移行は難しいのか? SQL方言、ストアドプロシージャ……
データベース製品特有のいわゆる「SQL方言」も移行の障壁の1つである。主要製品のいずれもANSI SQLをベースにしているが、それぞれが独自に拡張した構文や機能を提供しており、特にストアドプロシージャや組込み関数などに差がある。また、データベースドライバや運用監視ツールなども異なり、一口にデータベースエンジニアと言っても、SQLを知っているかよりも、「どの製品の環境を知っているか」を問われるのが実情だ。
また、用途ごとに種類の異なるデータベースを運用している企業では、それぞれの製品をよく知る一部のデータベースエンジニアが安定的に運用している。では、その人たちが引退するとシステムはどうなるのか、運用の属人化という課題も浮かび上がってくる。
何よりも、データベース移行の難易度を高くしているのは、ストアドプロシージャのようなビジネスロジックを“データベースに埋め込んでいる”設計にある。このようなレガシーシステムをクラウドに移行する際、データベースエンジンは変えずに温存する「リフト&シフト」もあるが、クラウドの良さを最大限に活かす「モダナイゼーション」を選ぶ場合は、この設計自体を見直さなくてはならない。大久保氏は、「データベース移行の本質的な難しさは、データベースエンジン自体の移行よりも、アプリケーションを含めた移行にある」と指摘。このような設計が採用されたのは、「採用当時には最も合理的だったからだ」と説明する。
2000年以前、クライアント/サーバーアーキテクチャが最先端だった頃、ネットワーク帯域は現在とは比べ物にならないぐらいに狭く、クライアントとサーバー間の通信をいかに減らすかがパフォーマンス設計の要諦だった。現在のアプリケーションでは、同様の設計にする必要性は薄れているものの、当時構築されたシステムが現役で稼働しているケースは多い。
このような数種類の商用データベース製品を使い分ける、複雑なシステムをクラウド移行した日本企業の事例として、LIXILの取り組みが参考になる。
移行前の同社は、基幹システムでOracle Database、他にもIBM Db2やMicrosoft SQL Serverを利用していた。課題となっていたのは、仮想基盤の老朽化やメンテナンスコストの増大だ。クラウドネイティブなアーキテクチャへの移行を決断すると、PostgreSQLベースのAlloyDBやCloud SQL(一部はSpanner)を採用したモダンなデータベースアーキテクチャに刷新した。懸念していたインフラコストは、SQL Serverシステムの移行で43%の削減に成功。他にもダッシュボードによる状況把握が容易になったおかげで、リリース後のパフォーマンス改善も実現しているという。
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なぜ「Google Cloud」が支持されるのか
クラウド移行先として、Google Cloudが選ばれるケースは多い。その背景には、データアナリティクスエンジンとしての「BigQuery」の実績が大きく影響している。データドリブン経営を志向する企業にとって、データアナリティクスからAI活用までをフルスタックで使える──この点が大きな動機になっていると大久保氏は評した。
そして、難しいデータベース移行における技術的課題を解決してくれる、新たな存在として期待されるものがAIである。4月の年次イベント「Google Cloud Next ‘26」において、同社は新たなビジョンを発表した。その一つである「Agentic Data Cloud」は、AIエージェントがデータにアクセスしやすいよう、データベース全体のアーキテクチャ像を示すことで課題解決を図るものになる。大久保氏によれば、今後のAIエージェント活用を視野に入れたとき、データ統合アーキテクチャの進化も念頭に入れておく必要があるという。
従来、BigQueryをアナリティクスエンジンの中核に据える場合、ETLでデータを集約するアーキテクチャが主流であった。しかし、企業システムのすべてがGoogle Cloudのテクノロジーだけで構築されているわけではない。AWSなど、他のクラウド環境にあるデータへのアクセス手段を確保しておかなければ、新しいデータサイロができてしまうことになりかねない。この問題に対処するため、Google Cloudが新しく提供するのが「Cross-Cloud Lakehouse」である。これを使うことで、クラウドの壁を越えて“ゼロコピー”でデータにアクセスできるようにした。
もう一つ、これから重要性が増すツールに「Knowledge Catalog」(旧 Dataplex Universal Catalog)がある。これはAIの精度向上に欠かせない、メタデータ情報へのアクセスを実現するもので、どのデータベースにどんなテーブルがあるのか、その中にどのようなデータが存在するのかを管理するものだ。多くの企業では、データベースの列定義プロパティの有無はシステムごとにまちまちで、個別にメタデータを整備する負担が大きい。Knowledge Catalogをセマンティックレイヤーとして機能させることで、AIエージェントがBigQueryにアクセスするときにも同レイヤーを参照し、人間の意図に沿ったデータを的確に捉えられるようになる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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