評価され感謝され、自ら成長できる環境に
華やかなチアリーディングのショーで幕を開けたイベント「システム管理者感謝の日」。第4回のテーマである「システム管理者にエールを送る!」をダイレクトに表現した活気あるオープニングとなった。
もともと「システム管理者感謝の日」は、米国のシステム管理者が「日夜に及んでシステムの安定稼働に努力しているシステム管理者に、母の日、父の日のように感謝する日があってもいいはず」という思いから7月の最終金曜日に定め、世界に広がったという。
現在、システム管理者は世界に数百万人にも及び、日本にも80万人以上ものシステム管理者がいる。その生産性向上への期待は高いが、いわば「縁の下の力持ち」として表立って評価されることは少なく、日々の業務に忙殺されて疲弊している人も少なくない。
会を主催する「システム管理者の会」の発起人であり、事務局を務める株式会社ビーエスピー 代表取締役社長の竹藤浩樹氏は、「今やITシステムはビジネスに欠かせない存在となったが、そのシステムを支えるIT管理者は十分に評価されているとはいい難い。感謝の日として感謝されるだけでなく、自ら生き生きと働き、仕事にプライドが持てるような環境や評価の仕方などをみんなで考える必要がある」と開会の挨拶を行なった。
さらに近年の動向としてクラウドの登場と普及を上げ、「責務の重要性が高まり、それに伴う管理手法や考え方が大きく変化するだろう。それを想定した情報発信で支援を行なう」と今後の活動についても熱く語った。
クラウド・コンピューティングとシステム管理者のこれから
続く基調講演では、クラウド時代に先駆けて、国内でSaaS、PaaSによるビジネスをいち早く開始した経験をもとに、株式会社セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏が「クラウドコンピューティングとシステム管理者のこれから」と題して基調講演を行なった。
まず、宇陀氏はクラウド時代へのイノベーションとしてブロードバンドなどの技術的進歩によるインフラ環境の向上をあげ、加えてコンシューマウェブの拡充による膨大なユーザーを対象にしたシステム技術の向上、携帯電話やスマートフォンの利用拡大、TwitterやYouTubeなどのソーシャルメディアの普及によるPull型からPush型への情報収集の変化などを紹介。
技術面とニーズ面の双方から、日本におけるネットインフラの進化と低コスト化が加速したと解説し、「日本はガラパゴスと揶揄されつつも、その実クラウド環境においては世界をリードしている」と評価した。
しかし、決して「すべてクラウドにすればいいとは限らない」といい、クラウドの利用は目的に応じて行なわれるべきであり、汎用的、一時的、暫定的なものなどが向いていると説明する。しかし、そうした部分的な利用だけでも、システム管理者の負荷は大きく軽減され、自社のコアとなるシステムに注力できると力説した。
続けて宇陀氏は「クラウド・コンピューティングにおいては、億単位のユーザーにブラッシュアップされ汎用化された技術を利用しつつ、効率的に新しい価値を作り出すモノを提供することが必須」と語り、そのアプリケーションや開発プラットフォームとしてSaaS、PaaSのマルチテナントな有用性を説いた。
なおSaaSはASPと似ているが、データをクラウド上に散在させ、ルールに基づいて集めて情報にするというメタデータドリブン技術に支えられている。データに意味を持たせないことで情報のセキュリティを担保しようというものだ。さらにPaaS活用の一例として、エコポイント申請システム開発のデモが行なわれ、Twitterに似たユニークな時系列型の開発画面が紹介された。
最後に宇陀氏は、こうしたクラウドの利用で生産性を向上させ、有意義な活動に費やす時間が生まれると力説し、システム管理者に向けて「新しい世界があることを知ってほしい」と結んだ。
基調講演の後は、活動内容の発表や後援スポンサー、賛同企業の紹介と続き、システム管理者認定試験合格者の表彰が行なわれた。
クラウドで大きく変わるシステム管理者の役割
スペシャルトークセッションでは、一転リラックスした雰囲気に。NHK教育「ITホワイトボックス」のレギュラーとしても活躍中のタレントの森下千里氏をゲストに、ゲームクリエイターや編集者など多彩な活動で知られる伊藤ガビン氏をモデレーターに迎え、システム管理者とベンダー双方の立場を知る代表として竹藤浩樹氏、そして、クラウドサービスの提供者代表として宇陀栄次氏が参加し、賑やかなやり取りが行なわれた。
まず竹藤氏が、ITシステムが社会インフラとしての重要性を増すほどシステム管理者を取り巻く環境が厳しくなっていることを指摘。「企業活動を支える重要な役割を担っていることを感謝され、誇れるようにしたい」と語れば、森下氏は「管理者は裏で仕事をしてくれている見えない存在。なかなかダイレクトに感謝を伝える機会がない」とユーザーの本音を代弁した。さらに「マニュアルを見ない、トラブルの状況が伝えられない」などのダメユーザーぶりを告白すると、伊藤氏も「自分も利用者として迷惑をかけているので、ちょっと場違いかも」と頭をかきつつ、システム管理者に意識的に感謝する日が必要と語った。
その上で竹藤氏が「日本のシステム管理者のサービスクオリティは高い。そのプライドには頭が下がるほど」と述べると、宇陀氏も「今までベンダーが全責任を持たざるを得なかったが、システムには多くの立場が違う人々が関わる『群衆の叡智』型の開発が生まれつつある」と新しい可能性を示唆。ユーザーとの親和性が高いGmailのようなシステムと、専門性の高い堅牢なシステムと両極化が進み、それぞれに管理の在り方が変化するという可能性があるという。 さらにはITを未熟な産業とし、それを支えているのがシステム管理者であることに触れ、ベンダーは水道や電気と同等の安定性を目指し、それが実現した後にシステム管理者の新しい価値創造が進むとした。
宇陀氏は「クラウドの活用でシステム管理者の逆襲がはじまる」とジョークを交えつつも、「システム管理者の生産性が向上することで、社会のシステムも大きく進化する。それによって地域や社会が活性化することを期待したい」と語った。
途中、森下氏が手がけるカレーショップの話に脱線しつつも、「クラウド技術は外来産だが、日本的なアレンジでカレーをカレーライスにしたように、ITでも新しい価値を生み出してほしい」と宇陀氏がまとめ、竹藤氏も「新時代はチャンス、感謝される仕事としてプライドを持ってがんばろう」と激励した。森下氏も「そのモチベーションのためにもユーザーは感謝を表現しなければ」とコメント。くだけた雰囲気に多彩な示唆があふれるトークセッションに聴講者からは大きな拍手が寄せられた。
最後に推進委員の株式会社フジテレビジョンの伊藤春男氏から、「環境の変化はピンチでありチャンス。感謝され、『やりがい』が自然と生まれてくる環境づくりに取り組んでいこう」と閉会の言葉が述べられ、盛況のうちに会は終了した。