今クライアント仮想化が注目されている背景
サーバーから始まった仮想化技術の進展とともに、シンクライアント技術を活用したクライアントPCの管理が再び注目されている。その背景にはクラウド・コンピューティングの浸透がある。IT環境をネットワーク経由でサービスとして利用するスタイルは、まさにシンクライアントにも通じるものがある。
シンクライアントでは、情報はセンターで集中管理され、ユーザーの手元にあるクライアントは表示と操作だけを担当する。「クライアント仮想化のポイントは、ハードウェア、OS、アプリケーション、プロファイルの各レイヤーを標準化し、分離すること」(日立製作所 岡田純氏)と指摘。ここでいうプロファイルとは、お気に入りやマイドキュメント、日本語辞書の設定など、ユーザーがクライアントを使用するにあたって必要な情報を指す。
では、なぜクライアントの仮想化と統合管理が求められているのだろうか。ひとつの有力なきっかけはセキュリティ強化。実際に日立が5年前からシンクライアントを導入したのもこのためだ。また、運用、管理工数を抑えてTCO削減につなげるという目的もある。テレワークなど新しいワークスタイルへの対応や、省電力、事業継続対策なども挙げられるだろう。
業務に最適な仮想化環境の実装手法を知る
ところで、シンクライアントにはいくつかの実装方式がある。
- Server Based Computing(SBC)方式
- ブレードPC方式
- 仮想PC方式
SBC方式は1つのサーバーOSを複数のユーザーで共有するもので、ユーザー収容度が高く効率的な一方で互換性に一部制約がある。ブレードPC方式では、1つのハードウェア上にある1つのOSを1人のユーザーが専有する。仮想PC方式は、1つのクライアントOSを専有できる点はブレードPC方式と同じだが、仮想環境上にあるため、柔軟なリソース配分が可能になる。つまり、ユーザーの利便性ではブレードPCと仮想PCにメリットがあるが、SBCには管理性のアドバンテージがあるわけだ。
それぞれ一長一短がある分、導入する職場の環境によって適したものを選ぶ必要がある。例えば、一般的な企業の場合、業務の30%が定型業務、60%が非定型業務とされている(残り10%は非定型・モバイル)。最低限のアプリケーションしか使えない画一されたクライアント環境では、定型業務をこなすぶんには問題ないだろうが、創造性が求められる非定型業務は難しいだろう。
同じ非定型業務にカテゴライズされていても、業務・ユーザーごとに最適なクライアント統合システムは違う。タスクワーカー対象であれば重視されるのは運用効率と集約効果。マーケティングやモバイルワーカーには利便性向上と同時に情報漏えい防止の仕組みを提供しなければならない。一方、開発・パワーユーザーが相手なら、高い処理能力が欠かせない。
管理者側は、何とかクライアント環境を統制し、集約率を上げたいと考えるものだが、ユーザー側はできる限り自由にデスクトップ環境を使いたいと思っている。「クライアント統合のテーマは、ユーザーと管理者双方の希望に沿い、いかに最適化するかにある」(岡田氏)というわけだ。