ファイナンスに求められるのは「スピード」:意思決定をリアルタイムに近づけるSAPの“新EPM”
海外約50拠点への「SAP S/4HANA Cloud」の展開に取り組む伊藤忠商事、クリーンコア徹底
SAPは10月5日〜7日(現地時間)、米ラスベガスでビジネス部門向けのイベント「SAP Connect 2026」を開催した。中でもファイナンス部門向けのFinance Keynoteでは、「Autonomous Finance: from Road Map to Reality」をテーマに、大きく3つのアップデートが紹介された。
伊藤忠商事が進める「AIX」“PoCなし”で本番展開に注力
アップデート内容説明の前、冒頭でファイナンスへのAIエージェント導入に取り組む先進企業2社のリーダーが登壇し、自社の取り組み内容が紹介された。
そのうちの1社が伊藤忠商事である。同社は、自律型エンタープライズの実現を目指し、「AIX(AIによるトランスフォーメーション)」に取り組んでいる。この変革の最初のステップが、海外約50拠点におけるSAP S/4HANA Cloudの展開だ。原田修作氏は、「以前は3,000件もの“改修”(アドオンではないと原田氏は主張)を抱えたレガシーシステムを運用していたが、移行にあたってはクリーンコアの原則を徹底し、一つひとつ改修部分を取り除くことに取り組んだ」と語る。
また、AIXに取り組むにあたり、チームのスキル強化は必要だが、多くの時間はかけられない。そこで、社内にInnovation Centerを設置し、SAPが展開するBusiness AI Platform CoE Programに参加した。これは今後のAI変革の実現を視野に入れたもので、SAPのサポートを得て、伊藤忠商事はチームのスキルを強化できたという。
最終目標はAIXをすべてのビジネスプロセスに拡げることだが、一夜にして実現はできない。そこで伊藤忠商事は、PoCなしで本番展開のみに注力することにした。原田氏は「私たちにとって常に重要なのが、スピード感を持って価値を実現すること。私はしばしば社内で『PoCとはPostponement of Commitment(コミットメントの先送り)である』と話している。PoCで終わってしまうことが多いため」と話す。スピード重視の場合、短期間で成果が出る領域を見極めなくてはならない。ファイナンスはビジネスへのインパクトが大きく、かつ構造化されている。だからAIXの最初のユースケースとして選んだという。
AIエージェント導入で焦点を当てたのは、2つのユースケースである。1つは会計伝票入力の自動化である。担当者が必要なドキュメントをアップロードすると、内容の解析から情報抽出までをAIが実行するように改めた。もう1つは会話ベースのデータ分析である。エンドユーザーがより直感的にインサイトを得られるようにした。
AIXはまだ始まったばかりだ。今後に向けては、トレーディングビジネス全体を支えるAIプラットフォームに進化させたいと原田氏は抱負を語った。
「EPM」「B2B決済」「GRC」の3つでポートフォリオを拡充
SAPは5月に行われた年次イベント「SAP Sapphire 2026」で、Autonomous Financeビジョンの下、多くのJoule Assistantを発表した。今回のイベントのFinance Keynoteで取り上げられたポートフォリオ拡充のテーマは、「Enterprise Performance Management(以降、EPM)」「B2B決済」「GRC(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)」の3つである。
ビジネスに求められるスピード感が変わる中、ファイナンスもそのスピードに合わせて根本的に変わることを求められている。CEOが期待するスピード感は、数日から数週間かけていたものを数時間に短縮するようなものではない。リアルタイムに近いスピード感であり、かつ正確な意思決定を実行することが求められている。しかし、ファイナンスのプロセスは、計画策定から、連結、開示、業績管理に至るまで、いまだに定期的なサイクルや手作業による引き継ぎの制約を受けている。
この構造を変えようとしているのがAIである。Finance Keynoteのホストを務めたデイヴィッド・インバート氏は、「特に貢献が期待されているのは、計画策定と業績管理の領域である。そこで、これまで提供してきたEPMソリューションを見直し、『Autonomous Performance Management』に拡張することにした」と説明した。
たとえば、ある地域で市場シェアを獲得する機会を見つけたとする。対策を講じる時間はごく限られている。ファイナンス部門には、単に「成長できるか?」の見極めだけでなく、収益性やグループ全体の業績へのインパクトまで把握することが求められる。
しかし、現状は自信を持ってアクションを後押しできるだけの材料が得られるような体制は整っていない。他のチームの協力を得て、計画を検証しなくてはならないし、材料を得た頃にはその機会は失われてしまうだろう。SAPはこの現状を変えたいという。Autonomous Performance Managementでは、戦略から、計画、実行、成果までをエンドツーエンドでつなぎ、CFOが変化のシグナルを察知し、自社ビジネスへの影響を理解し、自信を持って行動できるようにすることを目指すものになる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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