コスト、セキュリティ、電力……Oracleが示した、“AI課題”への最新アプローチ
AIが質問に答えるだけでなく、自ら判断して処理を実行するエージェントになると、ビジネスの文脈(コンテキスト)をどう理解させるかが問題になる。
新しくなった「Oracle AI Data Platform」では、AIエージェントが企業のデータベーススキーマやAPI仕様書、ドキュメントを解析し、業務用語や概念同士の関係、ポリシーを整理した「ビジネス・オントロジー」を自動で作る。このオントロジーを用いて、AIに業務のコンテキストを渡すのが「Oracle Semantic Reasoning Engine」だ。同エンジンは問いに関係する情報をオントロジーに沿って絞り込み、整理してモデルに渡す。コンテキストを持たないモデルに大量の非構造化データをそのまま渡して推論を繰り返させると、処理するトークン消費が膨らみコストがかさんでしまう。あらかじめ必要なコンテキストに絞り込んでおけば、回答の精度を保ちながら無駄な推論とトークン消費を抑えられる算段だ。
マグワイク氏は、顧客があらゆる企業データから価値を引き出せるようにすることを方針に掲げる。データがOracleの外にあっても例外ではない。その具体策が「Snowflake on OCI」だ。SnowflakeのAIデータクラウドをOCIのファーストパーティサービスとして組み込み、OCI共通の利用クレジット「Oracle Universal Credits」で購入できるようにした。データを移動させるコストや手間をかけずに、基幹業務データと分析・AI環境を同じクラウド上に置ける。
もう一つの課題は、現場でAIが生み出すアプリケーションの統制だ。生成AIの普及で社員が「Codex」などを使って自分で業務ツールを作れるようになった。ただし、社員がPythonなどのコードを直接生成させて作ったツールは、社内のID連携やアクセス制御が抜けがちだ。そのまま放置されれば保守できない「野良アプリケーション」となり、セキュリティ上の負債にもなる。
「Oracle App Composer」は、こうした現場のAI開発を管理下に置くための基盤だ。社員がAIで作ったアプリケーションに、IT部門が定めたセキュリティやデータ利用のルールを自動で適用し、社内のシングルサインオン(SSO)と社内URLを付与してOCIの本番環境にデプロイできる。IT管理者は実行環境を管理・監視できるが、業務データそのものにはアクセスできない。重複したアプリケーションの統合や使われなくなったアプリケーションの廃止、所有者がいなくなったアプリケーションの再割り当てもAIが支援し、ライフサイクル全体を管理する。
App Composerはアプリケーションの定義を個別のプログラムコードではなく、新たな言語「APEXlang」に変換する。APEXlangは抽象度の高い言語で、定義は20年以上の稼働実績がある「Oracle APEX」のランタイム上で動く。認証やアクセス制御のポリシーはデータベース層で強制されるため、開発者がセキュリティを個別に作り込まなくても、企業のガバナンスに沿ったアプリケーションをすぐに運用に乗せられる。
インフラの課題はチップから電力にまで広がる
エージェントの普及によって、ITインフラに求められるものも変わってきた。モデルの大規模な学習に加え、ツールの呼び出し、コードのテストを何段階も繰り返す推論処理を滞りなくこなす必要がある。
ハードウェアでは、NVIDIAの次世代ラック規模システム「Vera Rubin NVL72」の一般提供を始め、マルチギガワット規模まで拡張する計画も示した。また、Googleの第8世代TPU「TPU 8t」と「TPU 8i」をOCIで提供することも発表。ハイパースケーラーが競合する別のハイパースケーラーの独自チップを自社クラウドで提供することは異例だ。学習向けと推論向けに特化したチップを同じクラウドで選べるようになる。
エージェント特有のボトルネックには、「NVIDIA Vera CPU」で対処する。エージェントが外部ツールを呼び出したりコードを実行したりする間はCPU側の処理が挟まり、ここが遅いとGPUが待たされる。Vera CPUは、高いシングルスレッド性能と広いメモリ帯域でここを高速化する。シャガラジャン氏はSpotlight講演で、独自のネットワーク技術「Oracle Acceleron」を拡張してフロントエンドのネットワークにもRDMA(CPUを介さず、サーバー間でメモリ上のデータを直接やり取りする技術)を導入し、ノードとストレージ間の通信遅延を最大10分の1に縮めたことも明らかにした。
特に、基調講演で多くの時間が割かれたのは、データセンターの電力をめぐる課題だった。数十万基のGPUからなるクラスターは一斉に高負荷の処理を始め、学習の終了や障害で一瞬にして止まる。これは、100万軒の家庭で100万台の電気ヒーターを一斉につけたり消したりするようなものだ。こうした急激な負荷の変動は地域の送電網の周波数を乱し、電気系統を不安定にしかねない。
Oracleはこれに対し、データセンター内に大容量バッテリーとスーパーキャパシタを併設し、パワーエレクトロニクスで制御する緩衝機構を自社で設計した。スーパーキャパシタは大電流を瞬時に出し入れでき、頻繁な充放電にも強い蓄電デバイスだ。電力を大量に蓄えるバッテリーと秒単位の変動を吸収するスーパーキャパシタを組み合わせることで、送電網から見た負荷の急激な増減をなだらかにする。いわば、電気的なショックアブソーバーである。AIインフラの競争力はチップの調達だけでなく、受変電や系統保護といった電気設備のエンジニアリング力でも決まるようになっている。
権限を持つエージェントをIDとネットワークで縛る
エージェントが人間に代わってシステムにアクセスし、取引を実行するようになれば、セキュリティの前提も変わる。しかも、AIによってソフトウェアの奥に埋もれてきた脆弱性が次々に見つかるようになった。
これに対抗するために投入されたのが「Oracle AI Security Mesh」だ。OpenAIのサイバーセキュリティ向け最先端モデルを使い、OCIだけでなく他社クラウドやオンプレミスも含めたシステム全体の構成とソースコードを継続的に解析する。攻撃者の視点で侵入経路を検証して脆弱性を特定し、テスト済みの修正パッチとレポートを作成する。適用は、人間が承認した上で行う。脆弱性の発見からパッチ適用までのサイクルを、AIが主体となって24時間回す仕組みだ。
ID管理も強化された。「OCI Identity Assurance」は決済の実行や権限の変更といった重要な承認の場面で生体認証を必須にし、承認する人間が本人であることを確認する。エージェントには、タスクごとに発行して完了と同時に破棄する一時的な「Agentic Identity」を割り当て、必要最小限の権限を必要な時間だけ付与。さらに、「OCI Zero Trust Packet Routing」が権限設定とは別に、ネットワーク自体で通信できる範囲を制限する。万一、エージェントが乗っ取られてもネットワーク内での侵害の拡大、機密データの持ち出しを通信の遮断で食い止める仕組みだ。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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