アルトマン氏「コンピュータの中で工場を動かしている感覚だ」
基調講演の後半にはOpenAI CEOのサム・アルトマン氏が登壇し、マグワイク氏と対談した。話題はフロンティアモデル(各社が開発する最先端の大規模モデル)の進化から、ソフトウェア開発や人間の知的生産の変化にまで及んだ。
最初の話題は、モデルの進化の速さだった。アルトマン氏がこの1年で最も驚いたこととして挙げたのも、変化のスピードそのものだ。ChatGPTの登場から約4年で、小学生レベルの算数を解く程度だったモデルが数学や科学の最難関の問題に取り組むまでになった。その加速度は、この6ヵ月でさらに強まったという。アルトマン氏は、GPT-6について「未知の知識を見つけ、きわめて難しいタスクをこなす能力でモデルが一気に前進した瞬間だった」と振り返った。
続いて、話題はソフトウェア開発と人間の役割に移った。Oracle社内でコードの7割以上をAIが書き、エンジニアではない社員がアプリケーションを作っている状況について、アルトマン氏は「自分をプログラマーだとは思っていなかった人たちが、課題に直面すると当たり前のようにアプリを作り始めている」と述べ、同じ変化を感じていると話した。
その上でアルトマン氏は、最新のツールを使っているときの感覚をこう語った。
「最新のツールを使ってコンピュータの前に座っていると、まるでコンピュータの中で工場を運営しているような感覚になる。やりたくない雑務は自動化され、行き詰まることなく次々にアイデアを進められる。以前ならコストが高すぎて手をつけなかった突飛なアイデアでも、当たれば大きいと思えば気軽に試せるようになった」(アルトマン氏)
マグワイク氏も「少年時代に初めてプログラミングに触れ、自分のアイデアが形になったときの純粋な喜びを、いまは30代や40代のビジネスパーソンが自然言語で体験している」と応じた。AIが技術的な敷居を下げ、多くの人の創造性を引き出しているという認識で2人は一致した。
対談は、セキュリティリスクにも及んだ。アルトマン氏は、企業経営者に最も急いで伝えたいこととして、目先の生産性よりもセキュリティ脅威の把握を挙げた。
「AIについて企業に一つだけ助言できるとしたら、Codexによる生産性向上よりもAIがもたらすセキュリティ脅威の状況を真剣に理解し、防御策を講じることだ。AIシステムが見つける脆弱性の多さには、私自身も衝撃を受けている。先回りして対処するには相当な努力が必要になる」(アルトマン氏)
マグワイク氏が「AIがバグを生んでいるのではなく、過去半世紀分の遺産を掘り起こしている。だからこそ、防御もAIで自動化するしかない」と返すと、アルトマン氏も同意した。サプライチェーン全体に広がる脆弱性を人手で修正する従来のやり方は、もう通用しない。その認識についても2人は同じだった。
最後にアルトマン氏は、AIがもたらす次のフロンティアとして“科学的発見”の加速を挙げた。チップ設計や創薬、新素材の開発など、AI自身が新しい技術や科学を生み出す領域に入りつつある。それが結果として、より高品質で安価なサービスを社会にもたらすという。アルトマン氏は、「私たちは頭ではこの変化を理解していても、感情のレベルではまだこの大きな波を受け止め切れていないのではないか」と語り、対談を締めくくった。
問われるのはモデル選びではない
一連の講演から見えてきたのは、AIがもはや既存の業務に添えるチャットツールではないということだ。AIは企業のデータモデルを作り直し、開発を一部の専門家の手から解放し、データセンターの給電設計にまで変更を迫っている。OracleがOpenAI、NVIDIA、Google、Snowflakeといった有力企業との提携を深めていることも、エージェント時代の基盤を1社だけでは支え切れないことの表れだろう。
企業のITリーダーが考えるべきなのは、個々のAIモデルの性能比較ではない。自社の業務データやポリシーをエージェントに正しい文脈として渡せるか。現場が次々に作るAIアプリケーションを統制できるか。エージェントに権限を委ねても安全な仕組みをインフラの深い層にまで築けるか。組織とシステム基盤をAIを前提に設計しなおせるかどうか、これらが問われている。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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