クラウドサービスとしてのデータベース
最後に、クラウドサービスとしてのデータベースについて、いまいちどおさらいしておきたい。
Salesforce.comが主張しているのは、どういった技術的な仕組みでデータベースが提供されているのかではなく、クラウドで必要なデータベースのサービスとはいったいどういったものかというアプローチだ。
ここで主張されているのが、「利用したいと思ったらすぐに始められ、マシンの設定やチューニングなどに一切ユーザーが悩まされることのない環境であること」だ。だとすれば、マシンや、OS、データベースなどを購入するのではなく、利用したデータベースの使用量に応じて料金が発生する仕組みも必要となるだろう。
また、クラウドの利用シーンについても多種多様なクライアント環境に対応するべきだろう。最近は、ビジネスアプリケーションの世界であってもPCなどだけでなく、タブレットやスマートフォンなど多様なデバイスが利用されつつある。これら多様なデバイスからも、ストレスなくサービスを利用できるようにすることが求められている。
さらにTwitterやfacebookなど、ソーシャル的なアプリケーションのようにリアルタイムにプッシュで情報を提供する使い勝手も、最近のクラウドサービスには求められつつある。これは、定型的なプロセスの処理だけでなく、日常的な活動の中で日々生まれる情報とデータベースに蓄積された情報を合わせて活用する仕組みとなるだろう。当然ながら、既存のシステムと連携する必要もあるので、クラウド上のデータベスに接続するためのインターフェイスを用意していなければならない。そしてそのインターフェイスは、そのサービス独自のものではなく業界標準技術であることが求められる。
クラウドに求められるものが震災後に変化
これに加え、去る3月11日に発生した東日本大震災後、IT関連においても、今回の震災によるさまざまな影響が出つつある。今回の震災で発生した津波の被害は、建物が利用できなくなる、一時的に停電するというレベルの被害をはるかに超え、根こそぎ地域を破壊してしまったところもある。結果的にそこにあったITシステムが、瞬時にまったく使い物にならなくなってしまったのだ。せめて遠隔地にバックアップを行っていれば、なんらかシステムを復旧ができたかもしれない。場所によっては、企業や団体の活動を継続するのに必要なデータを、すべて失ってしまったケースも出ているようだ。
通常、事業を継続するのに必要なデータは、データベースに格納されている。現在、格納されている重要なデータをとにかくいち早く保護するために、にわかに注目されているのがクラウドなのだ。大規模な災害対策の仕組みを急ぎ構築するには費用も手間もかかる。データのバックアップ先をクラウドにすれば、とりあえずは安全な遠隔地に安価にバックアップが可能と考えられているのだ。
このように、従来クラウドに求められていたのは、コスト削減とアジリティ(俊敏性)が主なものだった。それが、リスク対策や、信頼性、冗長性の確保へと変化してきたのだ。
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以上、クラウド時代のデータベースのこれからについて考えてみた。なお、本記事からプレオープンとなるDB Onlineでは、データベースというものに軸足を置き、クラウド時代のIT技術者に必要となる技術情報をじっくりと読める連載形式で、また最新の技術トレンドやベンダーのメッセージなどはインタビュー形式のコンテンツとして提供していく予定である。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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