今回、とりわけ注目されたのは、NPOや行政が被災地の復旧・復興に利用するOSSプロダクト「サハナ(SAHANA)」だ。サハナは、2004年のスマトラ島沖地震で津波被害をうけたスリランカのFOSSコミュニティによって開発され、スリランカ政府の正式なシステムとしても採用された。現在はSahana Software Foundation(SSF)が開発の中心となっている。
日本では、2011年5月31日に、パブリックなsahana.jp0.1が公開されている。
サハナとは
発表に立ったひょうごんテック(ひょうごNPO情報通信技術支援ネットワーク)の野方純氏(同世話人、関西Debian勉強会)によると、サハナは「災害が起きたところでしか使えない、シーンが限定された特殊なソフトウェア」だという。
災害時の救援情報を共有できるウェブベースのソフトウェアは、震災後Googleのパーソンファインダーを筆頭に企業・個人を問わず数多く立ち上がり、OSSとしてもsinsai.infoで利用されているUshahidiが注目を集めている。
サハナがそういったツールと大きく異なるのは、ソーシャル的に広く情報を集めてマッチングすることを目的とするのではなく、被災地で活動しているボランティア団体などが、自団体内や周辺の活動や問題点を登録し、運用するツールだということだ。
想定される利用者は、復旧・復興に直接関わるNPO、NGO、VC(ボランティアセンター)、避難所(の管理者)、行政関係者などで、ニーズに合わせて次のような機能が用意されている。
・避難所および避難者の管理
・支援物資の拠点間のやりとりの管理
・インシデント(危機)の記録と対策
・アセスメント(状況)の記録と対策
・現地で活動する団体の管理
・ボランティア管理
・行方不明者の登録、検索
・遺体管理など
あたかも災害対応に特化された業務マネジメントツールのような趣だ。
例えば「断水した」というインシデントが発生したときは、支援要請が必要だったり、何をするかを決めてスタッフをアサインしなければならない。その際に、サハナに「断水した」というタスクを追加し、決定した対応や担当者を登録する。緊急ならば「緊急」と設定できる。そういった事象をひとつひとつ管理する
野方氏によると、現地では「モノ(送られてくる支援物資)はあふれているし、ひと(ボランティア参加者)もどんどん入れ替わる」という現状があり、物資と人材の両面から管理をしたいという要求がある。
しかし、一方で現地のスタッフの方は必ずしもITリテラシーが高いわけではなく、また団体によってやりたいことも異なっている。
サハナではさまざまなニーズに対応すべく被災地の業務が総花的に実装されており、一見するとそこまで必要かと思ってしまうような「遺体管理」といった機能まである。こういった機能はモジュール化されており、不要な機能は非表示にすることができる。
今回の震災で野方氏らが本家のSSFスタッフにアドバイスを求めたときにも、開口一番に「不要な機能を削除しろ」と言われたという。多くの利用者に開かれたツールではなく、現地に合わせて利用されるツールという特徴がこういったところにも現れている。
なお、野方氏によると今回の震災でも警察の手が足りずボランティアが一時的に遺体を管理するケースがあるらしく、遺体管理メニューは決して周辺的な機能ではない。インドネシアの津波からさまざまな被災地で利用されてきたことの積み重ねや、経験が開発に活かされていると実感したという。