ビッグデータにおけるフロー型フィードバックの事例
今回は、ビッグデータを「フロー型」にて活用される4つの事例について紹介したい。ビッグデータは、サイズの大きさのみならず、「高頻度で生成・収集」されるデータも併せて注目されている。フロー型活用においては、自ずとこの「高頻度データ」について注目することとなる。
第一の事例は、スマートグリッドをはじめとした「スマート○○」と呼ばれる概念に関する事例である。リアルタイムでのデータ収集と活用によって、システム全体を効率的に(コスト低減の実現等)運用するという考え方を紹介する。
第二の事例は、携帯電話サービスにおける動的な料金設定のケースとして、新興国における取り組みを紹介する。インフラそのものに対する投資を抑制しつつも、利用量や顧客満足度の向上に一定の成果が認められる事例である。
第三の事例は、行動ターゲティング広告の事例である。マーケティング分野におけるデータ活用は以前より活発に行われてきたが、ユーザー導線の分析等を通じて、ユーザーの関心事項等をリアルタイムに把握し、適時適切な打ち手を講ずることが可能となっている状況を紹介する。また、その中で、位置データが多用されつつある状況も併せて紹介する。
スマートグリッド、スマート○○でのビッグデータ活用
2008年に、IBMが「Smarter Planet」構想を発表して以来、「スマート○○」と名付けられた概念が数多く登場している。「スマート」とは「賢い」ということであると説明されることが多い。しかし、いま少しこの概念を噛み砕くと、「適時・適切にデータを大量に吸い上げ、そのデータの分析に基づいて各種の社会インフラ・システムを最適に稼動させ、結果としてトータルコストを安くするなどの効用を得る」という考え方といえる。
中でも「スマートグリッド」は、ビッグデータ活用に関する好例の一つである。送電網に関して、リアルタイムに状況を感知した制御を行うことにより、より効率的な送電を実現する。これにより、送電網に安定的な運用や電力消費量の削減を、比較的少ない投資のもとで実現することが可能となる。
「比較的少ない投資」というのは、具体的には「蓄電池の大規模な設置と比較して少ない投資」といえる。電力は基本的には作ったそばから消費していく必要があり、在庫として保持しておくことができない。あえて電力を在庫として保持しようとした場合には、蓄電池を用意し、そこに貯めておくことが求められる。
しかし、大規模に蓄電池設備を整備することは多くの費用を伴う。試算によっては、国内において太陽光発電等の大量導入に伴う送電網の安定化対策として蓄電設備を中心に対応する場合、数兆円から数十兆円単位でのコストが必要になるとされている。このコストと比較した場合、情報・通信技術を活用した需給調整を行うことは投資対効果が高い。これが、いわゆるスマートグリッドの基本的な考え方と言える。
このスマートグリッドを実現するためには、消費者や事業者といった電力の需要サイドと電力網を管理する供給サイドとのあいだでの情報集約・配信が不可欠となる。具体的には、「需要者が、電力需給あるいは自宅における太陽光発電の発電量などの情報を入手し、それに合わせて効率的に電気を消費する。あるいは最適な時間帯に自動的に作動する家電を導入する」(*1)ことなどが想定される。
また、スマート・イリゲーションという考え方もある。これは、潅水をより効率的に実施しようとするものであり、現状において世界の水の7割は農業に使われているが、その多くが非効率に使われているという問題認識から提唱されている。天気予報(近く雨が降るかどうかといった情報)や、各種のリアルタイム・センサーから得られるデータを活用することにより、最適な配水を行おうとするものである(*2)。
上で紹介した、スマートグリッドやスマート・イリゲーション以外にもあらゆる分野に関して想定されるソリューションであり、IBMのSmarter Planetの紹介サイトにおいては、主たる活用例として、交通や金融など30近い「スマート○○」の適用事例を紹介している(図1)。
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