10%の顧客の分析で、ビジネスを大幅に拡大
「IT調査会社のガートナーが2010年に行ったエグゼクティブ・プログラム・サーベイを見ると、CIOの2011年におけるビジネス戦略のトップ項目のほとんどが、分析が貢献できる領域である。テスコ社やハラーズ・エンターテインメント社のように、欧米では、今回のフォーラムのテーマである『見る』『知る』『予測する』を組み合わせて、うまくビジネスに展開している企業が出ている。しかし、日本国内ではなかなか分析がうまく活用できていない」とSAS Institute Japan代表取締役社長の吉田仁志氏は指摘する。
テスコ社は1924年に創設された、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売業を展開している世界でも屈指の企業である。POSシステムやメンバーシップカードなどを業界でもいち早く導入するなど、先進的な取り組みをしてきた。より効率的な経営をするため、顧客の消費行動の把握に着手しているという。
「これまでは購買データをもっていても、今までは何が売れているか、つまりWhatしか見ていなかった。しかしWho(誰)、When(いつ)、Why(なぜ)、How(どのように)というところまで見えるようになったことで、顧客のショッピング・パターンを分析することでカスタマー・シェア(顧客行動の変化)アップも実現。さらにはライフタイム・バリューも向上した。しかも分析するのは約10%の優良顧客のみ。その分析結果から導き出された施策により、1年後には、テスコで買い物する割合は28%も増えたなど、大きな効果が得られた」(吉田氏)。
また、米ラスベガスでカジノを展開するハラーズ・エンターテインメント社は、カジノで消費してもまた来たくなる限界金額(痛みポイント)を年齢や職業、性別など別に予測し、顧客が痛みポイントに達したときにウエイターやウエイトレスが飲み物を渡し、マシンから離れさせるという戦略を採用したという。「これによりカジノに戻ってくる人が増え、収益の最大化に加え、顧客満足度も向上したといいます」と吉田氏は語り、アナリティクスが経営やビジネスに大きく生かされた事例を紹介した。
日本企業が分析をビジネスに生かせない理由とは?
一方、なぜ日本の企業ではうまく分析が活用できないのか。「見える化しても何も変わらないとよく言われる。そう質問されると必ず、見える化することが目的になってしまっていないか、と尋ねることにしている。見える化はあくまでも収益を改善するなどの施策を打つための第一歩。それが目的化されてしまうと、何も見えなくて当然」と吉田氏は強調する。
また分析するにはデータの整備から始めないといけないため、なかなか分析まで着手できないということも言われる。それに対して吉田氏は、「もちろんデータの整備はした方がいいが、まず考えてほしいのは分析すべきデータは何かということ。先に紹介したテスコ社でも分析しているのは、10%しかいない優良顧客。つまりすべてのデータを整備する必要はないのです。今日のフォーラムでぜひ、事業に生かせる分析のあり方を収集してもらいたい」。吉田氏は最後にこう語り、SAS Instituteのフェロー、アラン・ラッセル氏にマイクを譲った。(次ページへ続く)