昨年から今年にかけて「ビッグデータ」というテーマが急速に注目を集めている。企業システムの片隅でホコリを被っていたログデータ、ソーシャルメディアなどに蓄積された消費者たちのつぶやき、センサーからリアルタイムに寄せられる物理世界の情報。テクノロジーの進歩によって、技術的、経済的な制約を理由に利用を諦めていた様々なデータを活用できるようになりつつある。
ビッグデータを活用すればビジネスにおける競争優位性を獲得したり、重大なリスクを未然に回避したりすることができるかもしれない。そうした人々の期待感を表すように7月28日、29日に日本IBMが開催した情報活用分野のカンファレンス「Information On Demand Conference Japan 2011」にも多数の参加者が来場した。
ここ2~3年間、データ活用関連分野の事業を急速に拡大させているIBM。1日目の基調講演に登壇した日本IBM 執行役員 ビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーション担当の鴨居達哉氏も「一昨年の夏に積極的な事業投資を行うことを全世界的に発表して以来、同領域の事業は急速に拡大している」と同社の勢いを印象づけた。
もちろん、データ活用自体は2年前から始まったわけではない。IBM自体も長年に渡ってデータ活用関連の事業を営んでおり、他のベンダーも企業情報システムの重点領域として積極的な投資を行ってきた。そうした経緯がありながら、あえてIBMが2年前にデータ活用領域に対して徹底的に取り組むと宣言した背景には、今までのデータの解析が局所的だったという認識があるという。
「データを狭く深く分析することに長けた専門家は企業内に点在しているものの、それらがビジネスに変化をもたらす影響力を持っていないのではないか」(鴨居氏)。そうした問題意識を解消するため、一昨年の投資計画の発表と同じタイミングで、今後のデータ活用のあり方を表現する新しい概念「ビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーション」を掲げた。
「データを解析し、ビジネスを最適化すること。あえて、ビジネス・アナリティクスの後に『オプティマイゼーション』という言葉を入れているのが私たちの一つのメッセージだ。データを解析するだけでは物事は変わらない。その結果を使って、業務の仕組みを最適化する、つまりアクションにつなげていくことが重要だと考えている」(鴨居氏)。
ビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーションというテーマに対して寄せられるユーザー企業からの問い合わせの内容を分析すると、彼らの問題意識は概ね4つに集約されるという。特に大きいのがグローバル化の進展。ビジネスに占める海外比率が高まるに従って、企業はこれまでの経験則が通用しない未知の市場に対峙することになった。世界中の多様な顧客に少しでも近づくために、データ活用に活路を見出すケースは少なくないのだという。その他、マーケティングやリスク管理、情報開示という面からデータ活用に関心を持つ企業は多いという。
翻って、データ活用の浸透度という面では国内企業はまだまだ改善の余地があると言えそうだ。IBMが世界的に実施した調査によれば、欧州・北米の企業の15%が『先進的なアナリティクスを利用している』と回答したのに対し、日本企業はその半数程度の留まっている。また、データ活用を行う上での最初の地ならしにあたるデータ品質、整合性について大半の欧米企業がクリアしていると考えているのに対し、依然として課題意識を抱えている国内企業は少なくない。
「実はこのデータが出てきた時に、どのように見るべきかハタと考えてしまった」と鴨居氏は述懐する。もしかしたら、準備が整っていないユーザーに対して自分達が新技術を押し売りしているのではないだろうかというわけだ。一方で違う見方も成り立つ。つまり、現在の国内企業はアナリティクス・ツールを使わずに海外企業と戦っている。アナリティクスを使いこなすことができれば成長を加速できるのではないか。現時点では結論は出ていないとしながらも、ツール・ノウハウ面は非常に充実してきており、積極的に投資を進める企業も増えてきている。そうした企業のサポートを行っていきたいとした。
また、1日の特別講演には日経ビジネス編集長の山川龍雄氏が登壇し、「震災後に見えてきた新しい常識―企業が激変時代を生き抜くための知恵とは―」と題して、3月11日に起こった東日本大地震以後、これまでの常識に変わって生まれつつある日本の「ニューノーマル」を紹介。また、2日目には今回のイベントに合わせて、米IBMのWatson Research CenterからDr. Chris Welty氏が来日した。同氏は、米国のクイズ番組「Jeopardy!」で人間のクイズ王に勝利する快挙を達成したコンピュータ・システム「Watson(ワトソン)」の開発プロジェクトをリードした研究者で、「コンピューティングの未来―膨大な情報から解を引き出す IBM Watsonのすべて―」と題してWatsonの基本的な仕組みとビックデータ活用の可能性を解説する特別講演を行った。
Information On Demand Conference Japan 2011は、IBMの5つのソフトウェア・ブランドのうち情報活用領域を担当する「Information Management」ブランドが年次で開催するカンファレンスの日本版。2日間にわたって合計で40もの個別セッションが用意される一方、最終セッションまで多数の聴講者が席を埋めるなど、人々の関心の高さが窺えた。