メインフレームをおもちゃのように使いたい放題
白井さんは入社したときからずっとIBM(厳密に言えば、現在の所属はIBMからの出向)。学生時代は理工学部で電気通信を専攻した。コンピューターに無縁ではないものの、主眼はMRIやCTなど医療機器に近く、ITやIBMのイメージとは少し離れていた。
就職先にIBMを選んだ理由は、専攻を通じて「コンピューターって面白い」と感じ、加えて社会インフラとしてのITに興味を持ったため。当時は就職氷河期が襲来する直前で、就職活動はそんなに厳しくなかった。
「今の学生さんのように山ほど応募せず決まりました。IBMを選んだのは『外資系ってかっこいいかも』くらいの気軽な感覚でした」(白井さん)
入社後は大型システム製品の検証部門に配属された。メインフレーム用のディスク装置の性能検証や、ソフトウェアの品質検証などを実施するのが仕事だった。この中に「DB2」もあった。バージョンで言うなら1や2、まだごく初期のものである。
通常メインフレームは企業の基幹業務で使われているため、そうそう簡単に操作できるものではない。企業の現場ではコマンドを1つ実行するにも、何段階もの承認を経てようやく実行できるほど運用は厳重だ。しかし白井さんは検証部門だったため、気軽にさまざまな操作を試すことができた。「検証用とはいえ、メインフレームをおもちゃを扱うかのように(気持ちとしては)楽しんでいました」(白井さん)。
検証部門で5年が過ぎたころ、現在在籍しているISEに出向となった。ISEはいわばIBMグループのIT専門家集団。高い技術力を持つエンジニアたちがさらに技術力に磨きをかけているようなところだ。
ISEではDB2やデータマイニング製品「Intelligent Minor」などの技術サポートを命ぜられた。サポートといっても高度な技術サポート。IBMのエンジニアに対して提案や構築時の技術的なサポートをしたり、社内外の研修では資料作成から講師までをこなしていたりした。IBMのエンジニアたちを育て、バックアップするような存在だ。
IBMでは誰よりもDB2を知る存在であり、それが使命でもあった。誰にも分からない「お手上げ」状態の客先に招かれ、顧客に「こちらが本物の専門家です!」と紹介されることも。さぞやものすごいプレッシャーだっただろう。