順序を決めない「非順序型実行原理」で圧倒的な性能をたたき出す
最先端研究開発支援プログラムの中では唯一となるIT分野を課題に掲げている。まだIT分野は行政や政治の世界では理解されにくいらしい。「これでがんが治ります」と言えば理解されやすいが、情報処理の分野だと「電卓の延長にあるもの」や「Googleと何が違うの?」という感覚で見られてしまいがちだそうだ。
喜連川先生の研究は「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」。これは(当時はまだ「ビッグデータ」という言葉がなかったが)ビッグデータ時代に向けてデータベース処理の高速化技術を開発することと、それを使った社会サービスの実証や評価となっている。産学連携のパートナーは日立製作所。大学側は理論、日立製作所は製品という形にするという形で役割分担がはっきりしていた。
現段階では開発成果となるデータベースエンジンが世に出たところ。2012年5月に日立製作所と共同で発表したデータベース製品「Hitachi Advanced Data Binder」がそれである。技術的には「非順序型実行原理」、つまり「処理順序を決定しない」ところがポイント。一般的には処理順序はデータの入出力要求の発生順序で決まるが、この順序にとらわれないことでマルチコアのプロセッサやストレージシステムなどリソースの利用効率を高めることができるのだという。
「実行するたびに実行順序が違うのだから、けったいなものです」などと喜連川先生は笑う。当初「誰も信じなかった」というほど斬新なアプローチだった。しかし日立HiRDBを利用した評価実験では例えば、1.5TBのデータに対して処理 が13.5時間から7.5分に短縮し、107倍の高速化を実現した。
このような高速化が実現すれば、より膨大なデータ、より詳細なデータも分析できるようになる。いま「ビッグデータ」というキーワードでよく語られているように、新たな気づきが得られるかもしれない。このデータ処理基盤から将来何が生まれるか、期待は膨らむ。