ビッグデータをきっかけにデータウェアハウスやBI市場が好調
さて、なんとなく明るい兆しがみえてきたタイミングで、調査会社のアイ・ティ・アールがデータベースマーケットに関する調査結果を発表している。市場調査レポートの「ITR Market View:DBMS/BI市場2013」がそれだ。この調査報告書のトピックをみてみると、リレーショナルデータベース市場シェアでは、2010年度から2012年度にかけてはOracleがトップを維持しているものの、Microsoftがシェアを伸ばしておりその差は僅差にまで迫っているとのこと。年末に話を聞いたときも、新規のライセンスではキャッチアップできそうなところまできているとMicrosoftのSQL Server担当の斉藤氏が強気な発言をしていたけれど、どうやらそれを裏付けるような数字となっているようだ。
もう1つ注目なのは、データベースアプライアンスの存在だろう。この市場は、2012年度は金額ベースで37.4%も増えると予測。先行するのはOracle、Teradata、IBMの3社。とはいえ、成長分野ということもあり、参入するベンダーは増加傾向にある。たしかに、国産ベンダーも、この領域に参入することを次々と発表している。しばらくは、圧倒的な勝者が支配するというよりは、多くの新規参入、多様なプレイヤーで混戦模様となるようだ。
個人的にはあまり注目していなかったのだけれど、ETLの領域ではIBMがトップシェアなのだそうだ。2011年度は4.1%の微増で2012年度も増加傾向にある。システムの一元化であるとか、ビッグデータブームによるデータウェアハウス環境の見直しなどとか、増加傾向に貢献しているのはそのあたりかなと予測するところ。というのも、データウェアハウスとBIの分野については、2011年度、2012年度とも30%超の大幅な成長とのことだからだ。この大幅成長は、まだしばらく続きそうな予感だ。
もう1つビッグデータブームが後押ししていそうなのが、データ・マイニング、テキスト・マイニングの世界。これらも10%前後の成長をしているようだ。まだまだニッチで規模的には大きくはない市場だろうけれど、今後の成長が期待できそうな分野だ。長くからこれらの領域に関わりビジネスを続けてきたベンダーにとっては、やっとのことで訪れた「春」となりそうだ。
いま注目のカスタマー・エクスペリエンスってなんだ?
もう1つ、調査報告書の話題を。こちらは、Oracleが昨年からかなり力を入れている、カスタマー・エクスペリエンスに関するグローバルの調査報告書「Global Insights Succeeding in the Customer Experience Era」の日本語版だ。調査したのは、Oracleの委託を受けた独立系の市場調査会社。
カスタマー・エクスペリエンスは、日本語にすると「顧客経験価値」。製品そのものの性能や機能、サービスの中身といったことではなく、製品を購入したり使用したりした過程での、「顧客の経験から得られる価値」のことだ。ここ最近は、このカスタマー・エクスペリエンスを重視する企業が増えつつある。そして、企業におけるカスタマー・エクスペリエンス向上の支援アプリケーションを提供しているのがOracleだ。
アンケートは、世界各国のCEO、COO、CIO、CTO、さらにはChief Customer Officerといった日本ではまだ馴染みのないような経営幹部に対して行われた。その人数は、北米、ヨーロッパ、日本、アジアの18カ国の経営幹部1324名、うち日本は75名とのことだ。
カスタマー・エクスペリエンスへの期待感というか危機感は大きいようだ。経営幹部はカスタマー・エクスペリエンスを提供できなければ、年間売り上げの20%の損失につながると回答しており、今後2年間の最優先課題の1つにもあげている。企業においてカスタマー・エクスペリエンス向上の取り組みが進まない原因としては、人や組織がサイロ化しているといった組織の壁だと回答している人が27%いた。これは、カスタマー・エクスペリエンスのビジネスに携わっている道下氏もよく耳にすることだとか。これはまさに、ITの全社規模での効率化を阻害する要因と同じだ。 「カスタマー・エクスペリエンスに関する顧客と企業の認識には乖離がある」と、日本オラクル 製品事業統括 アプリケーション事業統括本部 CRM/HCM事業本部 本部長の道下和良氏は言う。たとえばソーシャルメディアはカスタマー・エクスペリエンスを後押しする存在であり、多くのユーザーがすでにここで「経験」を共有している。しかし、企業はやっとその重要性を認識し始めたばかりで、その取り組みに試行錯誤している状況。アンケートの結果でも、91%の企業がカスタマー・エクスペリエンスのリーダー企業になりたいと考えているものの、その取り組みを始めているのは37%にすぎない。
Oracleの見解の1つとしては、サイロ化した社内組織を超越した、顧客中心の文化を育むべきで、ここが重要だと道下氏も言う。組織というカットで顧客を見るのではなく、顧客を中心のその接点を一連の行動のストーリーとして捉えるようにする。そうすることで、昔から言葉だけは先行していた「360度の顧客視点」といったことが真に実現できることになるのだろう。
顧客に対するサービスを向上させようとすると、顧客にばかり目が行ってしまう。とはいえ、重要なのはその顧客に直接対応する従業員だという発想もある。たとえば、カスタマー。エクスペリエンスで先行していると言われているスターバックスでは、従業員がいいと思わない商品は扱わない。さらにサウスウエスト航空では、従業員が1番で顧客が2番ということをCEO自らが明言している。これは、高い従業員モラルがあってはじめて、カスタマーエクスペリエンスの向上につながるということ。
つまりは、実際にカスタマー・エクスペリエンスの向上を実現するには、ITなどのテクノロジーを導入すればそれだけで解決できるわけではない。従業員向けの研修プログラムなど、顧客に直に接する「人」に対する取り組み、さらに企業のコアバリューとして、カスタマー・エクスペリエンスの向上を再定義する必要もある。経営者自らが、そういった方向性を明確に示し、社内外に周知することも重要なのだ。そういった取り組みをした上で、顧客サービスの改善につながるITテクノロジーを導入するべきなのだろう。