世界が称賛する“インフラ品質”を輸出できない日本
自動車や建機といった組み立て産業、炭素繊維のような要素技術を生かした素材産業、商社を中心とした資源開発事業への直接投資などでは、世界市場で日本企業が成功した事例が数多くあります。一方で、社会インフラの輸出は、ベトナムやリトアニアでの原子力発電所建設における独占交渉権の獲得や輸出、英国の鉄道受注といった事案はあるものの、現時点では我が国のインフラ関連産業の成長を牽引するとは言い難い状況です。
上のグラフには、世界の上位225コントラクターに絞った海外インフラの売上推移が示されています。2005年から2010年の5年間で見ても売上が約2倍に拡大していることが判ります。この間にインフラに強みを持つ欧米企業はもとより、韓国や中国企業も大きく売上を伸ばしました。一方で、日本企業の受注額は年間200億ドル程度の横ばいで推移しているのです。
前回お伝えしたように、我が国の社会インフラは世界的に見ても極めて高い水準にあります。海外の評価も高く、新興国のみならず先進国から日本を訪れる人々の多くが、日本の社会インフラの品質の高さに驚嘆し、賞賛します。
では何故、我が国の社会インフラ輸出は伸びていないのでしょうか?
日本には高品質な社会インフラを構築して運営する能力はあるものの、それを「商売」として組み立てて売り込む意志と経験が不足していると思えます。
日本のインフラ事業者の多くは、公共を中心とする社会インフラ運営者と長期安定的な関係の中で事業を行ってきました。社会インフラの運営者は関係メーカーを育てようという感覚もあり、コストがかさんだとしても、良いものを作れば適正な利潤を乗せて事業費を負担してくれました。その事業環境で、発注者と信頼関係を築きニーズを満たすことに注力する受身的な事業姿勢が身についてしまったのです。
私たちがコンサルタントとして社会インフラ輸出をご支援する場面では、短期間の市場調査を経て、現地でPDCAを繰り返しながら、具体的な成果を獲得していくというパターンが増えています。その活動の中で、繰り返し検証する代表的な論点は次の3点です。
- 相手を知る:現地市場は如何なるステータスになっているのか
- 価値を定める:現地に対して如何なる価値を提供していくのか
- コミュニケーション:相手を知り価値を伝えるコミュニケーションを如何に行うか
次ページからは、この3つの論点に対する着眼点をご紹介していきます。