まずは、SDN Japan全体を数値で振り返ってみたい。
第1回目のSDN Japan2012の開催期間は2日間、協賛企業は15社、延べ来場者数は約850名であった。開会の挨拶、来賓挨拶を除いたセッション数は16。このうちセッションタイトルにOpenFlow/Open vSwitchと含むものが6つあり、その他のセッションもOpenFlowをいかに活用するかという視点のセッションが多かった。SDN Japan 2012はSDNと言えば、Sourth Bound API側が主な視点であったといえる。
第2回目となる今年は開催期間が3日間、協賛企業は23社へと拡大しSDNへの期待が拡大していることがうかがえた。述べ来場者数は981名(9/20日14時時点)。開会の挨拶、来賓挨拶を除いたセッション数は35と昨年から倍増。しかし、セッションタイトルにOpenFlowと明示的に含むものは3件。SDNコントローラやNaaS、OpenStack等のクラウドOSに関する話題が増え、North Bound API側へ視点が移動していた。
シスコ、ジュニパー、アルカテル、老舗三社のSDN戦略
今年の大きな特徴は、シスコ、ジュニパー、アルカテルといった老舗のネットワークベンダーのソリューションが出揃ってきた点だ。既存のネットワークに膨大な顧客基盤を持つ彼らがどのような戦略を考え、どこをターゲットとしているのかを知ることは、今後のSDNの方向性を予測する上でも重要である。各社がどのようなソリューションをアピールしたのか見てみよう。
シスコシステムズ合同会社
シスコ社のSDN関連セッションとしては、SDNコントローラOpenDaylightに関するパネルディスカッション「OpenDaylightはどこへ向かうのか」があった。
OpenDaylightとはSDN向けの各種ソフトウェアを様々な企業が共同で開発する、The Linux Foundationの共同開発オープンソースプロジェクトを指す。
シスコシステムズ合同会社 早川浩平氏、デル株式会社 鈴木孝規氏、日本アイ・ビー・エム株式会社 牛尾愛誠氏、日本電気株式会社 工藤雅司氏、ブロケード コミュニケーションズ システムズ株式会社 小宮崇博氏の五名のパネラーと、日経コミュニケーション編集長 加藤雅浩氏がコーディネータを務めた。
OpenDaylightに取り組むシスコの狙いとして、早川氏は「まずはSDNマーケットの育成が大切。ビジネスを作っていかないとベンダーにもユーザーにもメリットが無い。OpenDaylightはフリーで使えるSDNコントローラであり、SDN市場を拡大させるための発射台だと思ってほしい」と語った。
OpenDaylightに対する各パネラーの反応は概ね好意的であったが、デルの鈴木氏は「90%以上のコードをシスコ社のエンジニアが書いていることには脅威を感じる」と率直な意見を述べた。これに対して早川氏は「オープンソースとして提供しているため、全てのコードは公開される。そのためシスコのエンジニアがコードを書いていると言っても、シスコの人間としても優位性があるとは考えていない。現時点では若干アドバンテージはあるのかもしれないが、数年後には分からない」と答えた。
すでに国内SDN市場で先行するNECの工藤氏は「ネットワーク市場の30%がSDN化していくと考えている。みんなで集まって標準化していくことが重要。複数の企業が様々な技術を投入することで可能性が拡がる」と複数企業での取り組みを評価した。
加藤氏が「SDNは儲かるのか?」と問いかけると、日本IBMの牛尾氏は「SDNは道具であり、儲け方はお客様に考えて頂きたい。IBMはそのためのフレームワークや土台作りをサポートしたいと考えている」と述べた。早川氏は「ネットワークシュミレータを提供したい。テストしてから商用環境に適応するなどが可能になれば、メリットを感じて頂けるのではないか」と語った。小宮氏が「SDNだけでは儲からない。サービスを提供している人にももっとSDNに入ってきてほしい」と語ると、パネラー全員が大きく頷いた。
筆者の印象として、ここに登壇したパネラー陣の間でも、OpenDaylightに対する期待や狙いは異なっていると感じ、プロジェクト内での意思決定や方向性を統一させるのは難しいという印象を受ける。
OpenDaylightの利点は様々な企業が参画することにより、SDNの業界標準ができ上がることにある。しかし、多くのベンダーが参加するがゆえにスピード感を失うリスクもあるだろう。SDNの分野に商機を感じるベンダーの多くは、OpenDaylightに参画しつつ自社プロダクトの推進も並行して行っている。自社内での意思決定は自社の顧客の課題の最大公約数に対するソリューションを実装すれば良いため、意思決定の速度は複数企業が関与するより早くなる。
業界標準のエコシステムとして成立するか、それとも各社単独のソリューションがスピードで勝利するのか。同プロジェクトを検討するユーザーはその見極めが必要となるだろう。