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ガートナーの海外アナリストに聞いてみた

ドナ・スコットさん、クラウド市場でのAWSの優勢はまだ続きますか?

その2


 10月15日から3日間に渡って開催されるガートナー主催の年次イベント「Gartner Symposium ITxpo 2013」では、国内外の著名アナリストによるセッションが数多く行われますが、今年は例年にも増して海外アナリストの面々が豪華です。

 今回、本コーナーで質問に答えてくれたドナ・スコットさんもそのひとりで、ガートナー リサーチのバイスプレジデント 兼 最上級アナリストの肩書をもつ、クラウドコンピューティングやITインフラの専門家です。そのスコットさんに、今回は主にクラウド市場の現状と展望について伺ってみました。

クラウドは幻滅期へ

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ドナ・スコットさん

 --テクノロジの成熟度を示す図として有名な"ガートナーのハイプサイクル"から見ると、クラウドコンピューティングは現在、5つのフェーズ(テクノロジの黎明期/「過度な期待」のピーク期/幻滅期/啓蒙活動期/生産性の安定期)のどのあたりに差し掛かっているといえるでしょうか。

 スコットさん: クラウドコンピューティングにおいて現時点ではっきり言えるのは、ハイプサイクルにおける「過度な期待」のピーク期を過ぎ、幻滅期に向かっているという点です。実際、クラウドの失敗事例やクラウドに対する失望の声なども上がってきています。ただし誤解しないでほしいのは、幻滅期というのはITのある技術が成熟し、普及していくためには欠かせないフェーズだということです。

 --つまり"過度な期待" - クラウドなら魔法の杖のように何でもできるような幻想から人々が抜け出し、現実的な視点をもつようになった時期だと捉えていいでしょうか。

 スコットさん: クラウドの利用例が増えたからこそ、不満や失望の声が出てきたと言えます。実際、ユーザの購買行動には明らかな変化が見られます。もちろん、オンプレミスを完全に捨て去るような事態にはなっていませんが、近い将来、ミッションクリティカルなサービスをクラウド上で稼働するケースは確実に増えているでしょう。コスト効果を考えてサービスを選ぶ風潮が強くなってきている現在、オンプレミスと混在しながらも、クラウドへの流れは進んでいくと見ています。

 ただし追加しておくと、クラウドコンピューティングとひと口に言っても、パブリッククラウド、プライベートクラウド、IaaS、SaaS、Paasといろいろな捉え方があり、それぞれ異なるハイプサイクルの時期にあります。たとえばSaaSはすでに生産の安定期に入っていますが、IaaSは啓蒙活動期のゆるやかなスロープを上がり始めたところです。またプライベートクラウドはまさに幻滅期のただ中にあり、一方でPaaSは「過度な期待」のピークに差し掛かったところです。クラウドを採用しようとしているユーザは、それぞれの技術がハイプサイクルのどのポイントにあるのかを意識すると、その導入リスクを含めて検討できるでしょう。

AWS vs. VMwareの時代へ突入か

 --クラウドといえばイコールAWS(Amazon Web Services)というくらい、AWSが破竹の勢いを続けています。ガートナーが7月に発表したIaaSのマジッククアドラントでもAWSの強さは一目瞭然でした。クラウドにおけるAWSの勢いはまだ当面続くのでしょうか。

 スコットさん: AWSはIaaSという市場を作ったパイオニアでありながら現在も市場を牽引するイノベーターであり続けています。そしてそれは同時に、市場の破壊者でもあることを意味しています。

 ここでひとつ特徴的なのは、AWSは仮想化市場のリーダーであり、クラウドマネジメントプラットフォームを提供するVMwareとは直接の競合関係にはないという点です。つまりクラウド市場における2大トップは互いのシェアを奪い合うことなく成長してきたといえます。

 しかしここにきて変化が起こっています。VMwareは8月、同社の顧客向けに「vCloud Hybrid Service(vCHS)」というクラウドサービスを正式にローンチしました(日本でのサービス提供は未定)。これは明らかにAWSに対抗するサービスと見ていいでしょう。一方で、現在、オンプレミスで動いていたアプリケーションの多くがAWSやAWS上に構築されたPaaS/SaaSにマイグレーションされていますが、もしこの動きがもっと加速すれば、それはVMwareのビジネスやシェアに影響してくることになります。

 --ということは、今後はAWSとVMwareによる競争が激しくなると?

 スコットさん: 両者がこれまでぶつからなかったのはユーザ層が異なっていたことに大きな要因があります。AWSの場合は、社内のいちビジネスユニットの予算の範囲内で、しかも開発者向けのテスト環境構築などの事例が多く、(VMwareのように)組織全体のIT部門が指揮するような大がかりなシステム構築は少なかったといえます。しかしその傾向は明らかに変わってきた。IaaSの利用に習熟してきたユーザにより、組織の基幹システムにまでAWSを採用する動きが出てきています。つまりエンタープライズでAWSが認められる機会が増えているのです。パートナーによるAWSマネージドサービスも増えていますし、データセンター事業者やSIerによるAWSインフラの活用も進んでいます。この傾向をVMwareが無視することはできないでしょう。

 しかし、AWSのプライベートクラウド的な採用事例が増えていると言っても、我々としてはAWSが(プライベートクラウドやハイブリッドクラウド構築に欠かせない)クラウドマネジメントプラットフォーム市場に進出してくることはないと見ています。ただ、クラウドマネジメントプラットフォームを提供するベンダは、AWS互換機能を提供しているところがほとんどなので、ハイブリッドクラウド市場でAWSが不利になる可能性は考えにくいですね。

 --AWSに死角はないんでしょうか。

 スコットさん: もちろんAWSにも課題は多くあります。まずもっとインフラを強固なものにすること。パフォーマンスの保証、高可用性アーキテクチャなど、まだまだ高められるはずです。もっともインフラの強化に関してはAWSにとって生命線といえますから、その点では心配ないでしょう。

 それからアプリケーションの移行をもっと自由にできるようにすることも重要です。「このアプリはクラウドには移行できないと言われたけど、コストや運用の負荷を考えると、やっぱりなんとかクラウドにもっていきたい」と願っているユーザは少なくありません。オンプレミスでしか稼働できないと言われていたアプリを、できるだけ多くクラウド上で動かせるようにすること、これはAWSのライバルであるMicrosoft Windows Azureが同社のエコシステムを武器に現在フォーカスしている分野でもあります。

 もうひとつ、AWSの課題を挙げましょうか。AWSはレジリエンス、ハードウェアが1つ壊れても別のハードが代替できるインフラであることを重要視していますが、アプリケーション開発者だけでなく、エンタープライズの中枢まで普及を拡大させたいならインフラの"ベストエフォート"と向き合う必要があります。

 --インフラのベストエフォートとはハードが壊れないように努力するということですか?

 スコットさん: VMwareと並べて考えてみるとわかりやすいでしょう。高いハードウェアであれば故障は最小限に抑えられる - これがVMwareのインフラにおける基本的な考え方です。一方、AWSは「ハードウェアとは壊れるものである」という考え方を前提にしています。両者のフィロソフィーがまったく正反対であることが理解できるでしょう。

 AWSはレジリエンスというアプローチを優先してきたからこそ、クラウド市場で花開いたわけですが、アプリケーション開発者からエンタープライズに普及させるとなると話は違ってきます。ただ、だからといってAWSがエンタープライズに向いていないというわけではありません。むしろ、エンタープライズの側がアプリケーション開発者が取るような開発スタイルやデプロイに追い付いていないという言い方もできるでしょう。いずれにしろ、先進的なエンタープライズのインフラ担当者や運用担当者は、APIの抽象化レベルを含めて、システムをデザインします。彼らの描くアーキテクチャにふさわしいインフラなのか、レジリエンスとベストエフォートのアプローチが決定要因になる可能性はあります。

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エンタープライズがAWSを理解すべき

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この記事の著者

五味明子(ゴミ アキコ)

IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。
Twitter(@g3akk)や自身のブログでITニュース...

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