その企業はFinTechか、それともFinTechスタートアップか
―ウズローさんはFinTechの専門アナリストとうかがっています。そんなプロフェッショナルに初歩的な質問をするようでとても気がひけるのですが、そもそも"FinTech"ってどのように定義すべきものだのでしょうか。
ウズローさん: (満足そうに)非常によい質問です。実を言うと私も"FinTech"という言葉はあまりにもジェネリックすぎて、現在のトレンドを正しく示すにはふさわしくないと思っています。
現在、世間一般で"FinTech"と呼ばれている企業の多くは"FinTechスタートアップ"です。ガートナーではこれを"FTSU"としていますが、こうした従来の金融業のライセンスをもたず、テクノロジでもって金融サービスを提供する企業をFinTechと呼びながら、一方で大手金融機関やITベンダの新しい金融サービスへの取り組みを"FinTech"と総称している場合もあります。あなたのように混乱してしまうのもムリはないでしょう。
―まだよく理解できていないのですが、たとえばPayPalはFinTech企業になりますか?
ウズローさん: よい例題ですね。その質問に答えるなら、PayPalはFinTechです。しかしFinTechスタートアップではありません。ですがFinTechスタートアップと無縁かというとそうではなく、XoomやVenimoといったFinTechスタートアップを積極的に買収しています。PayPalのように、なんらかの形式(買収、投資、提携など)を通してFinTechスタートアップのポートフォリオと関わろうとしているFinTech企業は多いですね。
日本企業でいえば、野村総研、楽天、それに今回のシンポジウムで基調講演をされたソニーフィナンシャルホールディングスなどはFinTechの代表といえるでしょう。しかしこうした企業は現在のFinTechブームのもううひとつの主役であるFinTechスタートアップではありません。
FinTechの議論を行うとき、FinTechとFinTechスタートアップを混同しないこと、これは非常に重要な視点です。この視点をもっていないと"FinTechウォッシング(FinTech Washing)"、つまり"みせかけのFinTech"にだまされてしまうかもしれませんから。
―なるほど。FinTechという言葉が出てきたときは「誰が」「どんなサービスを」行おうとしているのかをまず見ていく必要があると。ではFinTechスタートアップにはどんな企業があるのでしょうか。ウズローさんが注目されている企業を教えてください。
ウズローさん: たくさんありますが、まず挙げたいのはTransferToですね。同社はクロスボーダーなモバイルペイメントネットワークを構築し、PayPalなどの既存サービスと提携してB2B決済の分野で大きな成功を収めています。現在では100を超える国と地域でモバイルによるリアルタイムな決済サービスを提供していて、彼らのサービスの下には45億人を超えるエンドユーザがつながっているといわれます。ただしTransferToは膨大なトランザクションのハブとして機能することに特化しているので、エンドユーザと直接はつながっていない点が特徴です。
もう1社挙げるとするならModoでしょうか。Modoが提供する「COIN」というトランザクションシステムは、クレジットカードやロイヤリティプログラム、クーポンなど、どんな決済であってもCOINに集約し、Google PlayなどのデジタルウォレットやPapPal、Alipayといった別のサービスからの利用を可能にするものです。こちらも決済とサービスをつなぐハブ的な機能に特化しています。
FinTechスタートアップに共通するのは、決済の世界にこれまでなかった新しいアイデアをテクノロジを使って持ち込もとうしている点です。とくにモバイルへのフォーカスとインタフェースを洗練させること、こうしたエクスペリエンスの向上にFinTechスタートアップは非常にこだわっており、旧来の金融ITには見られない特徴だといえますね。