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クリストフ・ウズローさん、そもそもFinTechってなんですか

edited by DB Online   2016/10/13 06:00

銀行は「国境の税関職員」になれ!

―銀行がユーザに安心感を与えられる存在だというのはわかりました。では具体的に銀行はその優位性をどうやってFinTechで活かしていけばいいのでしょうか。

ウズローさん: ガートナーでは銀行がFinTechビジネスに参入するにあたって認識すべき4つのデジタルプラットフォームを定義しています。まず自社の従業員が使う「情報システムプラットフォーム」、パートナーやサードパーティが利用する「エコシステムプラットフォーム」、顧客がデジタルバンキングなどで利用する「カスタマーエクスペリエンスプラットフォーム」、そして「IoTプラットフォーム」です。この4つのプラットフォーム間をまたいで、どんな情報がどこに向かって流れていくか、その流れをどう制御するのか - 銀行がこれをきちんと把握し、あたかも国境(ボーダー)における入出国を管理/制御する"税関職員(custom officer)"のように振る舞うことができれば、FinTechに対して正しいアプローチができているといえるでしょう。

銀行がFinTechで構築すべき4つのデジタルプラットフォーム。この境界線を流れるデータをうまくコントロールするのが銀行の腕の見せどころとなる(出典: ガートナー ジャパン)
銀行がFinTechで構築すべき4つのデジタルプラットフォーム。
この境界線を流れるデータをうまくコントロールするのが銀行の腕の見せどころとなる(出典: ガートナー ジャパン)

―うーん、4つのプラットフォームがあるのはわかるのですが、プラットフォーム間の情報をどう制御すれば銀行がFinTechで有利になるのか、いまいちイメージがつかめません…。

ウズローさん: わかりました、もう少し具体的に話しましょう。

たとえばA銀行がFinTechで新しい決済サービスを提供するB社と提携するとしましょう。しかしB社はFinTechスタートアップであり、一緒にビジネスをすることで風評リスクが伴います。このリスクを最小化するため、A銀行はB社(エコシステムプラットフォーム)による情報システムプラットフォームへのアクセスすを制限する必要があります。

しかし同じA銀行が顧客向けに提供しているデジタルバンキング(カスタマーエクスペリエンスプラットフォーム)は、「あなた自身の銀行を設計する」というイニシアティブを掲げたサービスを提供しています。したがって顧客のセルフサービス機能をサポートするために、カスタマーエクスペリエンスプラットフォームから情報システムプラットフォームへのアクセスは制限されません。

一方、B社はA銀行の情報システムプラットフォームにはアクセスできないのは仕方ないとしても、A銀行の顧客が何を求めているかを知りたい、つまりコンテキストに添ったサービスを作っていきたいと考えたとき、当然、カスタマーエクスペリエンスプラットフォームへのアクセス(エコシステムプラットフォーム経由)を望むようになります。しかしコンプライアンスを考えれば、A銀行の顧客情報をやすやすとB社に渡すことはできません。ここは銀行が顧客から期待されている部分でもあります。

―でも、それではせっかく提携したB社にはほとんどメリットがないのではないですか?

ウズローさん: そうですね。ですからたとえばA銀行は顧客の個人情報をマスクして、個人が特定されないかたちで顧客情報の一部をカスタマーエクスペリエンスプラットフォーム経由で提供し、B社のサービス(アナリティクスやコンテキスト化)に協力するということは可能です。また、エコシステムプラットフォームからIoTプラットフォームへのアクセスなら全面的にOK、という選択もできると思います。

 ここで重要になるのは、銀行側がセキュリティやコンプライアンスを可視化し、プラットフォームをまたぐ情報を管理/制御するためのダッシュボードを用意するということ、そしてデータのやり取りはAPI経由で行われるという点です。

―税関職員が国境間を出入りする人々の情報をパスポートで管理し、薬物乱用者のようにふさわしくない経歴の人間であれば入国を拒否する、そういうイメージで銀行がプラットフォーム間の情報を管理すると。このボーダーコントロール、つまりオーケストレーションに銀行ごとの個性が出てくるということでしょうか。

ウズローさん: そうです。とくにセキュリティは銀行にとってもっとも重要なキーエレメントであり、何度も言うようですが、多くの顧客が銀行にもっとも担保してもらいたいと思っている部分です。セキュリティの手綱さばきは銀行のFinTechアプローチを左右するといえますね。厳しすぎてもゆるすぎてもうまくいかないでしょう。

 現在、世界的にFinTechに対する規制を見直す方向にあります。コンテキスト重視の流れから、サービスプロバイダやサードパーティが銀行が提供するAPIにアクセスしやすくなる動きが強まっていますね。エコシステムパートナーに向けて、より速く、より詳しい情報を提供できるような環境づくりが期待されています。日本や中国などでも、規制緩和に向けた法整備が整いつつある印象を受けます。だからこそ銀行はよりいっそう、オーケストレーション、とくにセキュリティに対する自社の方針を明確にする必要があります。現在、多くの銀行はボーダー間を流れる情報を管理するという段階にいます。ここから次のステップである"制御する"に移れれば、FinTechでの銀行の存在感も大きくなるでしょう。

 銀行がもう一点、考慮しておく必要があるとすれば、FacebookやAlibabaといった、巨大なテックハブの存在との関係性です。たとえばAlibabaが提供する決済サービスなどは中国では銀行以上に信頼されています。銀行はこうしたテックハブとは良好な関係を維持/構築していかなければなりません。

日本のFinTech、ガラパゴスになる危険性は?

―最後に日本のFinTechについてどうご覧になっているか、ウズローさんの見解を聞かせてもらえるでしょうか。

ウズローさん: 何度か名前を挙げましたが、楽天、ソニーフィナンシャルなど非常にすぐれたFinTech企業が日本には存在します。また、ブロックチェーンなどの分野でも日本はかなり先行していると思っています。NECは世界的に見てもブロックチェーンの代表的企業ですね。少なくとも"トレンドに乗り遅れている"ということはありません。

―トレンドに乗り遅れているかどうかという心配よりも、個人的に気になるのは、日本企業が進もうとしているFinTechのアプローチは「世界標準から乖離していないか」という点です。一部の技術だけに特化してしまい、"ガラパコスFinTech"になってしまうのではないか、という点を危惧しています。

ウズローさん: これはガートナーの見解ではなく私の個人的意見ですが、日本のFinTechはむしろ世界標準から進んでいると見ています。IoTなどと同様、日本には産業界に多くの経験の蓄積があります。これは本来、有利にに働くはずのものです。

 しかしあなたが言うように、ひとつの技術だけに特化してしまうような近視眼的なアプローチでもってFinTechを進めてしまうと、サイロが生じ、孤立してしまう危険性はあると思います。ロボティクスなどは日本ではそうなってしまったところはありますね。FinTechがそうならないようにするためには、コンバインとコラボレーションの重要性を強く認識すべきでしょう。すでにある技術を組み合わせる、新しいアイデアを受け入れる、ネットワークを拡げていく、など、いくつものアプローチがあると思います。銀行だけでなく、FinTech/FinTechスタートアップが積極的にAPIを公開していく動きを作っていくことも大切でしょう。とにかくコラボレーションを妨げないことです。それはFinTechにかぎらず、あらゆるイノベーションを妨げることにつながってしまいますから。



著者プロフィール

  • 五味明子(ゴミ アキコ)

    IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。 Twitter(@g3akk)や自身のブログでITニュースを日々発信中。北海道札幌市出身 / 東京都立大学経済学部卒

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