年末を控え、今年を振り返る話題が増えてきた。中でも是非とも状況を把握し、次年度ビジネス計画に反映させたい数字が、ITRの発表した「IT投資動向調査2014」。「国内のIT投資は、リーマンショック以降全体的に低成長だったものが、今回大企業を中心に久々に回復しました。アベノミクス効果というのが、あるのかもしれません」―調査を行ったアイ・ティ・アールのシニア・アナリスト 舘野真人氏は、昨年段階ではネガティブに考えていたが、今年に入って実際の数字をとってみたら少しプラスに転じていたと言う。数字的にはリーマンショック前のレベルまで回復があり、増減傾向は5年前の状態に近づいたと報告する。
IT投資は回復するも戦略的な投資割合が増えない不安

とはいえこの回復の兆し、手放しでは喜べない状況だという。今回の調査で、たとえば来年以降もIT投資を増やすと回答している企業の数は少し減っているのだ。トータルの数字は基本的にプラス方向なので、来期予想は過去5年では最高となっている。しかしながら、先行きは若干不透明。消費税増税は、やはり懸念材料の1つとなりそうだ。
そして、今回の調査結果から明らかなのは、ビジネスが好調と認識している会社が投資を増やしていること。これ、当たり前と言えば当たり前だが、ビジネスに好調感が見えない会社は増やせていない。つまりは本業ビジネスが好調という会社が減れば、IT業界全体にネガティブな状況が生まれかねないわけだ。
ネガティブな可能性を残している原因の1つが、IT投資全体が増えたにもかかわらず戦略的な投資の割合が増えていないこと。維持メンテナンス、保守開発などの「今あるシステムを動かし続ける費用」と「戦略投資」の比率が、じつは過去最低だったのだ。このあたりが、まさに手放しで喜べない理由と言えそう。ここ数年とにかくコスト削減でお金を使わないようにしてきたが、「13年度は財布のひもが緩んだのかもしれません」と館野氏。言い方を変えれば、13年はポジティブにIT投資を行ったというよりも、「コストがかかった」と見ることもできる。「IT投資が、ビジネスの革新に振り向けられたかは疑問です」と館野氏は言う。

この傾向は本業ビジネスの不調な会社では、さらに顕著になる。そのような企業は定常投資が75%、戦略投資は25%しかないのだ。これでは企業の競争力はなかなか向上せず、好調な企業との差がさらに開きかねない。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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