顧客と向き合うためのバイブル「佐瀬理論」とは
「佐瀬理論」が最初に発表されたのは2008年。佐瀬さんは社内の表彰をうけ、記念スピーチを行うことになっていた。当時ちょうどノーベル賞受賞のニュースで「南部理論」が話題になっていたため、それにひっかけてタイトルを「佐瀬理論」とした。
タイトルこそ時事ネタではあるが、接客についての普遍的な内容なので近年では新人研修でも話している。例えば「お客様の前では資料を読まない。内容を頭に入れておいて、お客様ときちんと向い合って話し、ニーズを読み取ること」など顧客と向き合うときに大事な事柄が網羅されている。
佐瀬さん自身について話を移そう。これまでエンジニアとしてキャリアを積んだ佐瀬さんだが、最初からエンジニアを目指していたわけではなかった。大学では経営情報を専攻していたため、就活では商社か小売を考えていた。アシストは大学の先輩がきっかけで応募した。ITの商社であるという側面とフレンドリーな社風にひかれて入社を決めた。
「ものに価値をつけて売るのが商社とするなら、自分はまさに商社の一員として働いている」と佐瀬さんは言う。
入社し、配属はフィールドエンジニアとなった。顧客の現場に赴き、作業や調整などを行う。現在に至るまでほぼ一貫してデータベースを担当している。一時的にサポートセンターで修行したこともあったが、そのときは顧客との接点はメールや電話が中心で、直接顔を合わせる機会のない環境がストレスになったくらいなので、佐瀬さんは顧客と向き合って力が発揮できるのだろう。徹底的に顧客重視を貫いたエンジニアだ。
佐瀬さんにとって当初の希望は営業だったものの、フィールドエンジニアの仕事は「やってみたら天職」だったそうだ。そう思えるのはなぜかと聞くと「とにかく楽しいんですよ」と佐瀬さんは言う。そこには「自分だからこそできた」という強い自信が満ちあふれている。「お客様がほしいと思う製品やソリューションを最適な組み合わせで提案できた」、「ほかの人が思い浮かばないようなシステムを最適な形で構築できた」、「自分だからこそこの厄介なトラブルを解決できた」と何かを乗り越えるたびに自信を強めてきたようだ。すごくポジティブ。
新人時代、最初に遭遇した試練は顧客の現場でのOracle Databaseインストールだった。配属されて2ヶ月後、初めて1人で顧客の現場に出向いて作業を行った。処理が終盤にさしかかったとき、なんということか、画面に「エラー」と表示され処理が止まった。ただし見覚えがあるエラーだった(make処理のエラー)。内心焦りつつも、平静を装いながら先輩に電話して指示を仰いでから対処した。顧客側の担当者は取引先の新人が単独作業でデビューすることを承知していて、暖かく見守ってくれたらしい。
フィールド担当であれば、これまでトラブルには何度も見舞われたことだろう。どんな修羅場を経験したのだろうか。しかし佐瀬さんは「そりゃあ、ありましたよ」と言うものの、あまり詳細は語ろうとしない。大切な顧客への信義を貫いているようにも見える。
深刻なものとなれば叱責されたこともあっただろう。そうしたつらい経験を引きずることはないのだろうか。すると佐瀬さんは「一晩寝れば治るんですよね。他の人はそうではないと最近気づいたのですけど」と、けろっと言う。
睡眠で回復できるタイプらしい。朝になるとHPが満タンに戻るドラクエの勇者みたいだ。ちなみに睡眠時間は平均して6時間ほど。近年増えたそうだ。一晩明けると精神的に回復するだけではなく、煮詰まっていた案件やトラブルの糸口が見えることもあるという。脅威の回復力。
そして打たれ強さがある。ふと「トラブルに遭遇して激しく怒りをぶちまける人に限って、解決するとデレデレに変わったりしませんか?」と聞いてみた。猛烈に怒ったとしても、解決すると手のひらを返したように上機嫌になり、以降はトラブルのことなど忘れて何かと甘えてくるようなタイプがいるとほかで聞いたことがあるからだ。佐瀬さんは「そういう場合、お客様に不満は一度はき出してすっきりしていただいた方が、後で話がしやすくなります」と答えた。