P&Gのチャレンジ―真の「イノベーティブ・カンパニー」は体系的に取り組む
確かにランキングの上位50社のうち、約三分の一は1990年以降に設立されています。
しかし、1990年以前から存在している企業も存在します。その代表例がProcter & Gamble社 (P&G)でしょう。P&Gは1837年に設立されており、売上も842億ドル(2013年度、約8兆4千億円)ある、超巨大な老舗企業です。しかし、過去の生み出した巨大事業であるパンパースに頼りきることなく、近年も次々とファブリーズ、スウィッファーなどの新商品やブランドを打ち出しています。
大企業がトップの座にい続けようとすると、非常に多くの課題があります。無理ではないかと諦めてしまいそうですが、P&Gは諦めるどころか、イノベーティブであり続けることを明確に目標化しました。P&Gがイノベーティブでいる秘訣はこのことに尽きる、と私は考えています。一度のアイデア募集イベントをやったところで、他の体質が変わっていなければイノベーティブに変わることはできません。一つの新規事業に取り組むという一過性のものではなく、イノベーティブな状態を保つということはそのプロセスや、基準など、状態の定義がされていないといけません。
イノベーションのセオリー:「洒落たオフィス」にすることがイノベーションではない
実はイノベーティブな状態を創ることと、新規事業を狙って成功させること(たまたまや偶然ではなく)との違いは厳密にはありません。じっくり考えてみると、イノベーティブな企業体質を創ることと、新しい事業や製品が継続的に生まれることは、全く同じことであることに気づくことでしょう。現在、「イノベーション」という言葉がバズワードとして独り歩きしている状態なので、オフィスのレイアウトや、企業ロゴのデザインや、労働時間の裁量性など、表面的な状態を「イノベーティブ」ととらえてしまう風潮にありますが、真の「イノベーティブ」とは、新しいものを生み続けること以外にありません。言い換えると、体系的に企業体質をイノベーティブにすることで、一つ一つの新規事業の成功確率を上げることができるのです。
新規事業創出を体系立てて、総合的に取り組むためには、セオリーは不可欠です。しかも、色々な状況に応用できるような汎用的なセオリーが必要です。売上高が減少した2000年以来、P&Gはクリステンセンの破壊的イノベーション理論を元に、Innosight社と全社のイノベーション戦略に取り組み、成果を挙げています。
実はあまり知られていませんが、『イノベーションのジレンマ』を執筆したクリステンセンは、Innosight社以外にも、CPS Technologies社という上場企業を創業しています。現在はハーバード大学で教鞭を取りつつ、自身のイノベーション理論を元にInnosight社のコンサルティング事業を行うほか、ベンチャーキャピタルも運営し、教育・医療のイノベーション戦略のためのシンクタンクも設立しています。Innosight社としても自動車やエレクトロニクス、医療など世界中のさまざまな業界で実績があります。クリステンセンの破壊的イノベーション理論は原理原則に根差している上、幅広くさまざまな業界に応用した実績を持っているのです。