パブリッククラウドだけでは完結できない課題がある
「データセンターに置かれるリソースが、これからは減るなというのは感じていました。なので、5年くらい前から、自社でもクラウドのサービスを提供しています」―そう語るのは、独立系データセンター事業者であるビットアイルのマーケティング本部長 高倉敏行氏だ。
高倉氏によれば、クラウドサービスを提供しようと考えた当初から、ハイブリッドクラウドを念頭に置いていたという。データセンターで顧客のサーバーを預かり運用すると同時に、クラウドサービスも併せて提供するのだ。
インターネットサービスを行うようなベンチャー企業などでは、ピーク時に大きなコンピュータリーソースが必要になる。そういった企業にビットアイルではラックスペースを貸すビジネスを行ってきた。それをメインのサービスとしながら、サブのサービスとして、クラウドとつなげリソースの伸縮性を提供する。このデータセンターでのハイブリッドクラウドのサービスは、アーリーアダプター的な企業でまず利用されるようになった。
やがて、パブリッククラウドの利用が一般化し、大手企業も利用を開始。大手企業のニーズに対応するために、当然ながらビットアイルでもクラウドサービスを強化してきた。とはいえ、自前のクラウドサービスだけでは、なかなか難しい面もあるという。その一方で、AWSだけで、顧客ニーズを完結できないことも分かってきた。
パブリッククラウドとの間で高速なデータの転送を行いたい
パブリッククラウド利用の問題の1つが、データ転送だ。たとえば、AWSのデータウェアハウスサービスRedShiftを使うとする。データウェアハウスなので、たとえば全国の店舗POS情報を日次で収集し、RedShiftに渡すとする。集めたPOSデータが数100ギガバイトもあれば、転送にはかなりの時間がかかるだろう。AWSとの間に高速な専用線を用意すれば、確かに時間は短縮できるかもしれない。しかし高速専用線はコストが高い上に、POSデータの転送時にだけ使うのでは利用効率も良くない。
すべてのシステムがパブリッククラウド上にある企業はほとんどない。なのでパブリックとオンプレミス、あるいはプライベートクラウドとのデータ転送は必ず発生する。パブリッククラウドがいくら安価で容易に始められても、このデータ転送のところが高コストになってしまったり、セキュアでなくなってしまえば、やはりパブリッククラウドの企業での活用は進まない。
こういった課題に対処するために、ビットアイルが2012年に始めたのがAWSとの接続サービスだ。ビットアイルのデータセンターとAWSを専用線で結び、データ転送の高速性と高いセキュリティの確保を同時に提供したのだ。ユーザー企業が独自に高速専用線を引くのではなく、ビットアイルが十分に高速な専用線をAWSとの間にまとめて用意する。そして複数のユーザーが、それを利用したいときに利用するというわけだ。
「これは、ネットワークを含めたハイブリッドクラウドのサービスです。ネットワークでつなぐところまであって初めて、ハイブリッドクラウドと言えるでしょう」(高倉氏)
これは、企業が複数のパブリッククラウドを利用するシーンを考えても有効だ。今後は営業支援システムにSalesforceを利用しデータウェアハウスにはAWSを、社内システム用にはAzureを使うといった組み合わせもあり得るだろう。それぞれのシステム間で大きなデータをやり取りすることになれば、各クラウドサービスとの間に十分なネットワーク帯域を確保したくなる。それを顧客が自社で用意するとなれば、ネットワークのコストがかなり高くなることは容易に想像できる。ビットアイルでは、さまざまなパブリッククラウドと直接つなぐサービスを提供開始している。