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ガートナーの海外アナリストに聞いてみた

ジャッキー・フェンさん、テクノロジは「期待と幻滅」のサイクルから逃れられないんでしょうか


 毎年、世界屈指のトップアナリストが来日し、日本のCIOやITリーダーたちに向けて"デジタルビジネスの現在と未来"への提言を行うガートナー ジャパン主催の年次カンファレンス「ガートナー シンポジウム/ITxpo 2014」が、今年も10月28日から30日の3日間、東京・港区のホテル日航東京において開催されます。そこで今回も、来日するトップアナリストの中からお二人にお願いして、現在のITトレンドと日本企業のITアダプションに関するアドバイスを伺いました。初回はおなじみのハイプサイクルの考案者のひとりでもあるガートナー リサーチ バイスプレジデント兼ガートナー フェローのジャッキー・フェン(Jackie Fenn)さんに、ハイプサイクルのビジネスへの適用について聞いてみましたので、その内容をご紹介します。

ジャッキー・フェンさん

ジャッキー・フェンさん

――フェンさんはハイプサイクルモデルの考案者のひとりと伺っています。そもそもどういう経緯であの形(ハイプサイクル)を思いついたのでしょうか。

フェンさん: 我々が最初にテクノロジに共通するハイプサイクルモデルを編み出したのは1995年です。当時、AI(人工知能)を含む数多くのテクノロジがハイプサイクルで言うところの「過度な期待のピーク期」にさしかかっており、ユーザに対して"約束した価値"を届けられなくなりつつありました。それらのテクノロジの傾向を分析した結果、ほとんどのテクノロジは成熟する前、つまりエンタープライズのユーザに期待通りの価値を届けられるようになる前に"幻滅"される時期を迎えるというパターンになることがわかったのです。我々はこれをハイプサイクルモデルと名づけました。

――たとえばクラウドやビッグデータといったテクノロジも、キーワードとして登場したころは「クラウドすごい」「ビッグデータすごい」と言われていたのが、ある時期から急に「思ったほどクラウドは効率的じゃない」「ビッグデータは言うほどインサイトをもたらさない」などとネガティブな表現を多く見かけるようになりました。これがいわゆる「過度な期待のピーク」を過ぎて「幻滅期」を迎えた状態に当たるのでしょうか。

フェンさんらが考案したハイプサイクルモデル(出典:ガートナージャパン)

フェンさん: そうです。そしてこうしたテクノロジはハイプサイクルから逃れられません。もっと言えば、どんなテクノロジも"期待されたあとに幻滅される"運命にあると言えます。なぜそうなるのかというと、あるテクノロジが「過度な期待のピーク期」に向かっているときはユーザに対する市場からのプレッシャーも強くなります。「みんなが使っているみたいだから、ウチも○○を始めなきゃいけない」というプレッシャーです。しかし、実はその段階のテクノロジは成熟している状態にはなく、むしろ導入することでリスクが高まる場合が多い。現状のIT環境を不安定にさせる要因にもなります。

――ではテクノロジがもてはやされている状態、たとえば「クラウドすごい」「ビッグデータすごい」などと言われているときは、そのテクノロジを採用しないほうが良いということなのでしょうか。

フェンさん: いえ、そうではありません。ここで重要なポイントは、エンタープライズユーザはテクノロジがハイプサイクルのどのステータスに位置しているかをきちんと理解して採用すべきという点です。リスクを負ってでも新しいテクノロジを導入し、競合に大きな差をつけたいというアーリーアダプターの自覚をもっている組織なら「過度な期待のピーク」を迎える前にそのテクノロジを採用しても、大きなベネフィットを得られる可能性は高い。しかし、「周囲で使っている企業が多そうだから」という理由で流行のテクノロジを導入すれば深い幻滅を味わうことになります。もっとも「過度な期待のピーク」へと向かっているテクノロジに対して、セキュリティ、パフォーマンス、ユーザビリティ、そしてビジネスの現状といった要素を照らし合わせながら導入を検討するというのはかなり難易度が高いですね。結局は市場のプレッシャーに押し切られる企業が多いために、採用後に「こんなはずじゃなかった」となりやすい。だからテクノロジは「幻滅期」を迎えてしまうわけです。

――なるほど。市場からのプレッシャーは"誘惑"という表現に置き換えても良さそうですね。新しいテクノロジを採用したことで成功につながったいくつかのアーリーアダプターを見て、つい「ウチも同じようにできるかも」と期待を抱いてしまうというか。

フェンさん: エンタープライズユーザに申し上げたいのは、本当にそのテクノロジが自社のコアコンピタンスを高めてくれると思うなら、アグレッシブにアーリーアダプターとなることは間違いではないということです。当然ながらすべてのテクノロジに対してアグレッシブに採用しろというのではありません。しかしリスクを負ってでも採用する価値のあるテクノロジというものは存在します。そしてそれは企業ごとによって異なります。ハイプサイクルの正しい理解は、その見極めの精度を高めることにつながるのです。

――一般的なハイプサイクルモデルでは、いったん「幻滅期」を迎えたテクノロジはゆるやかにまた評判を取り戻す「啓蒙活動期」に入っていくようですが、二度目の"期待のピーク"を迎えることはないのでしょうか。

フェンさん: 二度目のピークというよりは、「幻滅期」をより早く脱して「啓蒙活動期」へと導くレバレッジのような兆候が現れるテクノロジはまれにあります。とくにそのテクノロジのポテンシャルがもともと高い場合はと「幻滅期」の期間が短くて済む傾向にありますね。また、短期間でフルファンクションのスイートが製品化されるなど、テクノロジの普及に劇的な効果を生じさせる出来事があれば、テクノロジが「幻滅期」を抜け出し、成熟に向かうスピードを速めることは可能です。

――フェンさんはAIの専門家とも伺っています。AIは現在、ハイプサイクルのどの位置にあるのでしょうか。

フェンさん: AI自体の進化はずっとゆっくりとした歩みで続いてきました。一方でAIが大きくかかわるテクノロジ - 音声認識やナレッジベースシステムなどは現在、非常に速いスピードでハイプサイクルに乗っています。たとえば音声認識を考えてみてください。昔のコールセンターに電話をかけたときに応答していたような、いかにも機械による合成音声からずいぶんと進化したと思いませんか。カーナビの自然なガイドやiPhoneに搭載されているSiriの音声ガイド機能は、非常にインプレッシブです。

 音声認識に限らず、AIのかかわるテクノロジは現在、大きく花開く時期を迎えています。ロボティクス、予測分析、マシンビジョン(machine vision)と呼ばれる画像処理技術、デシジョンサポート(decision support: 意思決定支援システム)、自然言語認識など、どれも新たなケイパビリティが期待されているところです。しかし数あるAI関連テクノロジの中でも、中でも最も注目度が高いのはやはり膨大なデータを元にしたマシンラーニング(機械学習)の現実の世界への適用でしょうね。たとえば、マシンが市街地を安全に走行する、マシンがニュース記事を書く、マシンが「Jeopardy!(ジェパディ: 米国のクイズ番組)」で人間に勝つ、こうしたことは数年前には不可能とされていたことです。我々はいま、まさに毎日毎日、マシンが賢くなっていくさまを目撃しているのです。このペースでマシンラーニングが進化していけば、10年後には確実に多くのビジネスで明らかな変化が起こっていることでしょう。

――そうしたテクノロジの中でもフェンさんが一番注目しているのは何でしょう?

フェンさん: ロボティクスは間違いなく、急激に進化を遂げている分野だと言えます。現在のロボットはどんどん改良が重ねられており、ナビゲーションも、移動も、タスクをこなすことも、仕事を覚えることも、以前に比べてずっと洗練されています。ロボットが人間のそばで安全に働く、または暮らすことが現実のことになってきているのです。価格の大幅な低下も、ロボットを大企業だけのものから、中小企業、さらには個人ユーザでもが手が届く存在へと変えました。

 我々(ガートナー)はこうした"スマートロボット"をハイプサイクルにおける「テクノロジの黎明」と「過度な期待のピーク期」の中間にあるテクノロジとして位置づけています。数年後には産業界にも個人の自宅にも、もっとたくさんのロボットが活躍していると期待しています。

――最後に日本のITリーダーに向けてアドバイスをお願いできますか。とくにソーシャルやビッグデータなど、新しいテクノロジの採用に悩んでいる人々にはどんなアプローチが有効なのでしょうか。

フェンさん: あるテクノロジ単体を取り上げて、その採用について別のテクノロジと比較して悩むことにあまり意味はありません。「今度、ウチの会社がやるべきなのは会計システムの更新か、それともモバイルロボットへの投資か、どっちなのだろう?」という疑問はバカバカしいでしょう? 同列に並べることができないモノを比べて悩んでもしかたがないのです。

 テクノロジの採用は、自社のポートフォリオ全体を俯瞰して考えるべきです。新しいイノベーションは魅力的に映りますが、自社のポートフォリオの中でどう位置づけられるのか、そして現在ハイプサイクルのどの位置にいるのか、それらを総合してあなたの組織にとって本当に必要だと判断したテクノロジなら、その導入はきっとビジネスの成長にパワーを与えてくれるでしょう。

 

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この記事の著者

五味明子(ゴミ アキコ)

IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。
Twitter(@g3akk)や自身のブログでITニュース...

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