崖っぷちに立たされた「東急ハンズ」に呼ばれて
――東急ハンズのIT改革には、どのように関わられたのですか?
はい、私が入社したのは、2008年5月頃で、その時の東急ハンズはまさに崖っぷち。Amazonや楽天などネットショップの台頭で強みとしていた品揃えの価値が急落し、始めたばかりのEコマースも振るわず、売上・利益とも低迷していました。
とはいえ、決して手をこまねいていたわけではありません。私が入社する2年前、2006年には新しいMD(マーチャンダイジング)制度を開発して新店舗のららぽーと豊洲店に導入し、次いで数店舗に展開されていました。しかし、どちらのお店でも期待した売上に届かなかったために、「システムに問題があるのではないか」と店舗からの反感が高まり、ついには新システムの店舗展開が凍結されてしまったのです。
この新たなMD制度の導入が決定される前までは、仕入れが店舗ごとに独立しており、それぞれ店ごとにシステムを持っていたのですが、仕組みがバラバラ、拡張性が低く、コストも二重負担になっていました。たとえば、ある商品を全店で取り扱うには、お取引先様が1店1店店舗をまわって20店舗分のバイヤーに売り込まねばならず、商品マスターへの登録は各店舗任せ。つまり、二重三重にも非効率な状態となっていたのです。ですから、複数のMDシステムを本部MDとしてまとめ、各店舗で行っている発注業務を一本化することは、効率化やデータの統合などを鑑みても必須事項であることは間違いありませんでした。
そもそも新しいシステムに切り替えただけで売上が落ちるとは考えられず、私はシステム以外に問題があるのではないかと考えました。まず欠品率の計算式が以前と異なっていること、オペレーションに問題があることなどもわかりました。
そこで再び現場の担当者を集めてヒアリングを行い、約3カ月かけて現場の課題を洗い出したところ、「本部MD移行後の業務設計ができていない」「マスタがバラバラ」「バグだらけで処理速度が遅く落ちやすい」など、現場担当者の感情を逆なでするような問題が続々と出てきました。それ以前に店舗のスタッフの中には本部MD制に反感を抱いている人が多いこともわかったのです。