
「ヒント・マーケット」というコンセプトを打ち出し、V字回復を果たした「東急ハンズ」。その裏側には、ユニークで型破りな戦略思考と情報システム部門の抜本的な改革があった。果たして「東急ハンズ」改革の一翼を担ったIT施策とはどのようなものだったのか。キーマンである長谷川秀樹氏へのインタビューを紹介する。第2回は、システム全体を短期間で総入れ替えすることになった経緯について聞いた。(前回の記事はこちら)
続投でのミッションは全システムの総入れ替え
――第1回で紹介した、MDシステム基盤の入れ替えプロジェクト完了後も、情報システム部門の責任者として続投することになりました。このあたりの経緯を教えて下さい。

▲長谷川 秀樹氏
株式会社東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長
ハンズラボ株式会社 代表取締役社長
MD基盤システムの導入のために問題点を調査する過程で、他のシステムについても様々な問題点があることが明らかになりました。それを報告したところ、「それなら全部やってほしい」ということになったのです。
それまでも様々な小売・流通業のシステム導入に関わってきましたが、外部のコンサルタントとしてだったので、アイディアは提案できても自分では決められないことを残念に思っていました。でも、東急ハンズの中に入れば、当事者として自分たちで決められるし、調整が必要となれば、いつでも相手の下へ足を運んで話しあうこともできる。いい経験になると思い、二つ返事でお引き受けしました。

――1つのシステムの問題を洗い出すうちに、他の問題点も見えてきたというわけですね。
そうです。とにかく多岐にわたってましたね。まず勘定系のシステムについては、1983年に構築されたものだったのですが重くて重くて…、月次処理時には度々業務を止めるほどの障害が高頻度で起きていました。さらに運用には”職人技”が必要で常時4名の熟練者を確保しなければならず、その人件費を含めてシステムのレンタル費用に年間5~6000万円(!)もかかっていたのです。
そして、会計系も同様に十年以上前のシステムだったことから、機能が十分とはいえず、足りない分を手作業でまかなっていました。人事・給与システムも同様にExcelの手作業でデータを処理して、それを外部に委託することで対応していました。
システムが古いことと、手作業が多いこと、そして何より独自の作り込みを行っていたため、会計制度の変更などに柔軟に対応できない状態で、そこに対応するために追加のコストが発生するなど、二重三重に問題を抱えていました。顧客管理・分析とポイント管理についても、店舗と通販でそれぞれが行っていました。
システムが古くて対応できない、連携できないという問題を、他のシステムを作って対応しようとしてきたことで、同じ目的の仕組みがあちらこちらに分散し、運用面もコストの負担面でも非常に非効率な状態になっていたのです。それはまるで建て増しを繰り返して迷路のようになった家のようなもの。使う人も管理する人も「わけがわからない」状態になっていたのでした。

この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
伊藤真美(イトウ マミ)
フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア