1982年、財団法人 新世代コンピュータ開発機構が設立され、次世代コンピュータを研究、開発するための国家プロジェクトが始まった。このときに開発しようとしていたのが推論するコンピュータ、考えるコンピュータであり「第5世代コンピュータ」と呼ばれていた。いわゆる旧来のAIである。こうしたものと、IBMが現在推し進めているコグニティブ・コンピューティングとは何が違うのか?日本IBM 東京基礎研究所 技術理事の武田浩一氏に話を訊いた。
旧来のAIのように脳を模倣するものではない
「(非手続き型プログラミング言語の)Prolog中心の推論エンジンを作ろうというものでした」と言うのは、日本IBM 東京基礎研究所 技術理事の武田浩一氏だ。この第5世代コンピュータは、現在IBMが強力に推し進めているコグニティブ・コンピューティングと考え方は似ている。

とはいえ、今と大きく違うのは当時はデータがなかったことだ。もちろん、Webも存在しなかければ、電子化されたWikipediaのようなものもない。「データがなかったことは、ものすごいハンディだったと思います」と武田氏。
2011年、米国クイズ番組「ジョパディ!(Jeopardy!)」で人間のクイズ王に勝利したIBMのWatson。クイズの問いに対する答えを導き出すために、今ではWikipediaなどの電子化されたさまざまな情報がある。なので、クイズのような広範な質問に対し答えを見つけるための情報源に困ることはない。逆に言えば、そういった電子化されたあるいは電子化できる情報があるからこそ、Watsonのような自然言語で考えるコンピュータが実現できたとも言える。考えるコンピュータとはいえ、人間の脳をそのまま模倣するものではない。クイズ王という一般の人よりも優れたも能力を持つ人をも超えるコンピュータなのだ。
もう1つ、第5世代コンピュータと現在のコグニティブ・コンピューティングが異なるところに、目指す答えとは何かという問題がある。当時の第5世代コンピュータ、あるいは人工知能(AI)は「真か偽を見分けるものでした」と武田氏は言う。これは嘘をつかない推論というものを重視し、質問に対する答えは1つに決まるだろうというのが前提だったのだ。ところが今のコグニティブ・コンピューティングでは、必ずしも答えが1つには決まらない。
「たとえば、翻訳をしたりクイズに答えたりという場合には曖昧性が重要となります。より正解らしいものを提示する。そのための候補は、1つとは限りません」(武田氏)
ありそうな答えを出すことが、当時のAIの推論エンジンではできなかった。今のコグニティブ・コンピューティングでは、統計的な考え方なども取り込んで「たくさん正解が出るように集合的な最適化をしています」とのことだ。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア