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週刊DBオンライン 谷川耕一

プロセッサの世界もオープン・コミュニティで行こう


 大学院を出たあと、SI企業のエンジニアとしてIT業界に入った。その頃、SunのUNIXマシンが開発に用いられていた。その後、UNIX専門の雑誌編集の仕事に就いた。作業環境はSunのワークステーションの上でエディターにEmacs、組み版処理ソフトウェアはTeXだった。次はOracleでマーケティングの仕事をした。担当はUNIXプラットフォームなどエンタープライズ向け製品だった。長い間、UNIXプラットフォームばかりが仕事対象で、Windowsの扱いなどはあまり得意でなかった。

UNIX系マシンの生き残り戦略

 ちなみに1990年終盤、バージョンで言えばRelease 7.3くらいの頃は、Oracle Databaseが対応するUNIXプラットフォームの種類はおよそ22(VAX、Data Generalなど含む)もあった。それがいまや、独自プロセッサを搭載するUNIXマシン提供ベンダーはOracleとIBMくらい。HPもItanium搭載HP-UXマシンを販売はしている。しかし、最新版のHP-UX 11i v3は8年前の2007年に登場。その後アップデートの形で更新されているが、メジャーバージョンアップはない。最新版Itanium 9500プロセッサも市場投入が2012年、これらはちょっと寂しい限りだ。

 しかしながら、プラットフォームがハイエンドなUNIXマシンならではの世界もなくなった分けではない。1つの方向性として汎用サーバーよりはかなり特化した用途でUNIXマシンを活用する動きがある。Oracleのエンジニアード・システムズやIBMのPureSystemsなどがそれに当たるだろう。Oracleの場合、エンジニアード・システムズのフラグシップ機ExadataはLinuxとIntel x86プロセッサの組み合わせだったりもするけれど。

IBMはプロセッサの世界にOSSのコミュニティ・エコシステムを

 Oracleは、SPARCチップにデータベースやJavaを効率的に動かすソフトウェア・イン・シリコン機能を搭載、それで自社プロセッサの未来を示している。対するIBMは、POWERプロセッサでちょっと面白い取り組みを始めている。それが「OpenPOWER」だ。ビッグデータやソーシャルネットワークの活用、IoTの普及など、これまでのSystems of Recordの世界に加えSystems of Engagementの世界が台頭。この新しい世界では、これまでとはまったく異なるワークロードが増える。音声や映像、センサーデータなどの非構造化データを大量に処理したいのだ。当然、マシンリソースはより多く消費される。

 実際に大量データを分析しようとしても、1台のサーバーに搭載できるx86系プロセッサ環境では効率よく処理できない。結果的にHadoopなどの仕組みを使って大量にサーバーを並べることに。技術的にはこのスケールアウトでSystems of Engagementの処理はできる。しかし、マシンが増えれば消費電力も増えスペースもより多く必要。運用管理の手間だって増大する。必要なサーバー数を大幅に削減できれば、当然ながら大きなメリットが生まれる。

 IBMによると、あるNoSQLの処理でPOWERプロセッサとx86プロセッサを比べたら、POWERは処理性能で約24倍、その上で電力消費はおよそ1/2で済んだとのベンチマーク結果があるそうだ。これだけの差があれば新たなデータセンターを建て増さなくても済むかもしれない。このPOWERプロセッサの能力に目を付けたのがGoogleだ。大量のx86サーバーを並べるのではなく、用途に応じ適宜POWERプロセッサマシンを活用する。

 このときに、IBMが組み上げたマシンをそのまま使うのではなく、Google独自用途に合ったマシンを組み上げたい。そんなことを実現するためのオープンな開発コミュニティがOpenPOWERだ。OpenPOWER Foundationを2013年12月に設立、会長はGoogleのゴードン・マッキーン氏が勤めている。これは、オープンソースソフトウェア・コミュニティのプロセッサ版とも言える。変化の激しい市場ニーズにIBMだけですべて応えるのではなく、コミュニティで対応する。それにより次世代テクノロジーのスピーディーな創出を目指すのだ

 コミュニティに参画しライセンスを受ければ、POWERプロセッサをカスタマイズして独自プロセッサを作ることも可能だ。またプロセッサ周辺装置などを含め、独自仕様のものをボードレベルで開発できる。Googleの場合は、プロセッサを独自に作るのではなくボードレベルで独自設計を行い、高性能化とコスト削減の両立を図ろうとしている。NVIDIAは、POWERプロセッサとNVIDIA GPUの組み合わせにCUDA(Compute Unified Device Architecture)ソフトウェア・サポートを追加。これを用いたJava向けGPUアクセラレータ・フレームワークで、CPUのみで実行する場合と比較しHadoopアナリティクスのパフォーマンスを飛躍的に向上することにIBMと取り組んでいる。

 コミュニティによるエコシステムで、イノベーションスピードは加速する、これはオープンソースソフトウェアのコミュニティで証明済み。同じ効果をIBMはプロセッサの世界で得ようとしている。すでにこのOpenPOWER Foundationには、2015年6月時点で120を越える企業や大学などが参加。日本でも日立が早い段階で参加を表明し、早稲田大学、東北大学がアカデミアメンバーとして参画している。

オープンなコミュニティによる開発が、POWERベースの次世代テクノロジーをスピーディーに創出
オープンなコミュニティによる開発が、POWERベースの次世代テクノロジーをスピーディーに創出

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OpenPOWERが早稲田大学の世界に誇るグリーン・コンピューティングを加速する

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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