独自のノウハウをオープンソース化するという賭け
最初からオープンソースとしてコミュニティベースで開発した製品をビジネスに活用する動きがある一方で、これまでは自社独自のノウハウだった貴重な製品技術を、新たにオープンソース化する動きもある。商用ベンダーが自社で独自開発している商用版に加え、機能限定したものをオープンソース版として提供する。あるいは製品のソースコードすべてをコミュニティに提供し、以降の開発をコミュニティに委ねるといった大胆な動きも見られる。
このオープンソース・コミュニティへの歩み寄りの背景には、変化の激しいIT業界にある。自社の抱えているエンジニアによる開発だけでは変化スピードに追いつけないとの危機感があるのだろう。また、自社だけの判断で新機能を計画し実装していくことへの不安もある。コミュニティの皆が欲しがっている機能こそが、優先し実装すべきだと考えたいのだ。
そんなオープンソース・コミュニティへの歩み寄りを新たに表明したのが、商用のベンダーの中でももっとも対局にいるイメージすらあるEMCだ。5月に米国で開催した年次イベント「EMC World 2015」で発表していたストレージの自動化や管理機能によりソフトウェア・デファインド・ストレージ実現する「ViPR Controller」を、オープンソース化して提供することが日本でも正式に発表された。
オープンソース版は「Project CoprHD(カッパーヘッド)」と呼ばれ、EMCの商用ソフトウェア製品を基盤とした初のオープンソース・プロジェクトとなる。これにより、ViPR Controllerのコードはコミュニティ主導の開発環境でオープンに利用できるようになるわけだ。オープンソース化されるProject CoprHDのソースコードは、GitHubから一部をすでに提供開始している。また、ViPR Controllerの機能強化を施した新バージョンのソースコードは、2015年第3四半期に提供を開始する予定だ。
Project CoprHDのライセンスは「Mozilla Public License 2.0」に従って提供される。Project CoprHDのAPIは、ストレージの自動化についてベンダー依存しない一元化されたコントロールポイントを開発者に提供できるよう設計されているとのことで、これを使えばEMC以外のストレージ装置だけでもEMC技術を使ったソフトウェア・デファインド・ストレージ環境を構築できるようになる。
ViPR ControllerとProject CoprHDのコアとなる機能や特長は同じだが、EMCは商用ベースのViPR Controllerの販売は継続して行う。EMCのグローバルなサポート、プロフェッショナルサービスを利用できることが商用版との違いとなる。
ViPR ControllerおよびProject CoprHDが今後どのような進化を続けるかは、未知数の部分もあるだろう。EMCが今後の開発でどういったリーダシップを見せるのか、あるいは開発のコミュニティが上手く形成されコミュニティ手動でどんどん開発が進むことになるのか。現段階では、これらは予測できないからだ。開発者なりがこのソフトウェア・デファインド・ストレージ環境にどれだけ興味を持ってくれるのかが鍵となるだろう。その状況次第で進化の道筋も異なりそうだ。
今回のようなオープンソース化に踏み切ったEMCの思惑には、コミュニティベースによる開発効率化的な側面だけでなく、よりEMCというエンタープライズ企業が「開発者にアプローチする」といったことも掲げられている。そのためにオープンソース化だけでなく、「ScaleIO」というもう1つのソフトウェア・デファインド・ストレージ製品についても開発者向けに無償提供を始める。こちらは面倒なユーザー登録もなく、機能的な利用制限もしないという太っ腹な状況で開発者に提供される。
EMCというバリバリのハイエンドでエンタープライズ向けのベンダーによる今回の変わり身、開発者はいったいこれをどのように受け入れるのだろうか。EMCは今期「REDEFINE.NEXT」というスローガンを掲げて、次世代を新定義して大きく1歩を踏み出すと言う。EMCジャパン 代表取締役社長の大塚俊彦氏は「激変の時代にEMCが大きく変革の舵を切っている」とも言う。今回のオープンソース化、無償化もその1歩なのだろう。とはいえ初の試みであり今後の動向を見てから、さらなる開発者への歩み寄り戦略は決めていくともEMCは言う。なので、今後さらに大きな1歩を踏み出せるかどうかで、EMCによる開発者への歩み寄り戦略の成否が見えてきそうだ。