アジア圏でルール形成とサイバーセキュリティ対策を進めよ
日本のインフラ技術は近年では重要な輸出力のひとつとなっている。日本政府は海外で競争力を高めていくためにルール形成戦略を進めており、ここにサイバーセキュリティも盛り込むことが今後重要になるという。政府のルール形成戦略でアドバイザーを務めているデロイトトーマツコンサルティング合同会社 執行役員兼パシフィックフォーラムCSIS(戦略国際問題研究所)シニアフェロー 國分俊史氏が背景を解説した。
2014年7月、経済産業省内に通商政策局ルール形成戦略室が設置された。ここでいうルールとはグローバルな標準、規格、規制などを指す。スウェーデンやドイツなど欧州では世界規模のルール形成を積極的に主導しており、世界競争力を高めることに成功している。グローバルなビジネスではルール形成の段階からすでに競争は始まっているのだ。ルール形成に関わり、主導することは将来の競争力強化に有効とみなされている。(参考:経済産業省のルール形成戦略)
ルール形成の分野や業界は多岐にわたるものの、今回テーマはインフラ。例えばインドネシアではスマトラ島やジャワ島など約100カ所で計3500万キロワット分の発電設備の開発計画がある。タイやミャンマーにも同様の話があり、アジアには大規模な火力発電所の建設計画がいくつかある。
一方でアジア圏では石炭や液化天然ガスなど発電所の性能基準が未整備な国も多い。発電効率の悪い発電所が相次いで建設されることになると、温暖化ガス排出量が増えるなど環境に悪影響が及ぶ懸念もある。
2015年9月、日本の経済産業省はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の加盟各国と地域で火力発電所の発電性能などに関する共通指標を作成することに踏み出した。共通指標には発電効率のほか、保守点検の体制、環境や安全対策も含む。こうした動きは環境悪化を防ぐだけではなく、各国政府が調達で日本製品を選択するようになる、つまり輸出拡大にも好影響を与えると期待できる。
例えば発電所で使うタービンで考える。日本メーカーが「この製品の保守契約にはAPECが定める○○のルールに適合しています」とアピールできれば有利に働くということだ。ただし國分氏によると現段階でAPECにおいては「減災」に目が向いており、サイバーセキュリティの重要性はまだそう高くないとのこと。
しかしアジアのインフラ建設において今後サイバーセキュリティ品質は重要な要素となり得る。國分氏は「米軍のリバランスがあります」と指摘する。米軍はいま再配備が進められており、アジア圏で米軍が関わるインフラ建設を進める上ではサイバーセキュリティやレジリエンスを考慮すべきというのだ。
米軍が消費する電力は相当な量になる。ビジネス規模も相当なものとなる。また米軍が必要とするインフラ施設は発電所だけではなく、空港や港湾、公共道路や上下水道も含まれる。米軍が関係するインフラとなれば、サイバーセキュリティ対策がおろそかになることは許されない。アジアでインフラ建設に関わる企業であれば、サイバーセキュリティ対策も設計に盛り込むことが企業戦略上重要になると國分氏は強調する。
日本企業は製品やサービスの品質を高めるだけではなく、日米同盟に基づくサイバーナレッジも製品やサービス盛り込むことができるとさらに優位性を高めると言えるだろう。さらに冒頭に述べたようなルール形成にサイバーセキュリティ品質も購買要件として盛り込むことができれば日本企業に大きく有利になる。
今後日本は輸出力強化に向けて冒頭に述べたようなルール形成戦略に加え、サイバーセキュリティ品質向上も併せて進めていくことが重要になる。両軸で進められれば日本企業のグローバル競争における新たな勝ちパターンとできる可能性があるということだ。