SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

最新イベントはこちら!

Security Online Day 2025 春の陣(開催予定)

2025年3月18日(火)オンライン開催

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けの講座「EnterpriseZine Academy」や、すべてのITパーソンに向けた「新エバンジェリスト養成講座」などの講座を企画しています。EnterpriseZine編集部ならではの切り口・企画・講師セレクトで、明日を担うIT人材の育成をミッションに展開しております。

お申し込み受付中!

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine編集部が最旬ITトピックの深層に迫る。ここでしか読めない、エンタープライズITの最新トピックをお届けします。

『EnterpriseZine Press』

2024年秋号(EnterpriseZine Press 2024 Autumn)特集「生成AI時代に考える“真のDX人材育成”──『スキル策定』『実践』2つの観点で紐解く」

紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

正式契約前に頓挫した開発の費用を巡って(続編)

 前回は、正式契約を結ぶことなくベンダに作業着手を依頼したが、結局、システムは完成することなくプロジェクトが頓挫してしまった判例をご紹介しました。たとえ請負契約前提の作業であっても、ベンダには商法512条に基づいてそこまでに行った作業について費用を請求することができ、そうしたことに備えて契約前の約束を文書化し、しかるべき責任者が合意すべきであること、金を払っても何も得られない可能性をリスクとして管理すべきであることをお話ししました。

 今回も、同じ判例を基に、契約前作業着手の問題について考えてみたいと思います。

 まずは、再掲で恐縮ですが、前回の判例をもう一度、ご覧ください。

正式契約前に頓挫した開発の費用を巡る裁判の例

 東京地裁平成19年10月31日判決より

 スポーツ施設運営業のユーザ企業が、会計システム導入のため開発を行うこととし、3つのベンダの提案を受けた。ユーザ企業は、他が、納期を遅らせるスケジュールを提示する中、唯一、納期遵守を約束したあるベンダに請負で依頼することを内定し、ベンダ企業は、開発代金の見積もりと取引基本契約書,請負契約書の案文を送付した。

 しかし、正式契約を締結する前になって、ベンダは、”この開発については、要件も定まっておらず納期も厳しいことから,要件定義が完了した段階で請負契約を締結したい。スケジュール管理も自身が行うという提案をして、ユーザもこれを了承した。

 契約のないまま、要件定義が開始されたが、途中、作業に遅れがみられたことから,ユーザの担当者は、ベンダの担当者に全体の納期に影響はないか確認したところ,問題ないとの回答だった。

 ところが、それから二ヶ月後、進捗の遅れは回復せず、ベンダが納期の遵守は不可能であるとして3カ月後らせる旨の提案をしたが、ユーザは、これを受け入れず、こうしたベンダの申し入れは、信頼関係を著しく破壊するものだとして、正式契約を締結しない旨を通知した。

 そして、この事件について裁判所は、たとえ正式な契約がなくてもベンダの作業着手をユーザが命じるあるいは容認していれば双方に債権債務が生じると考え、また、商法512条に基づいて、システムが完成していなくても受注者であるベンダは行った仕事に対して相応な報酬を請求できるとの考えで、以下のような判決を下しました。

 東京地裁平成19年10月31日判決より(続き)

 ベンダは,ユーザとの間に新会計システムの開発製作に係る請負契約は締結されなかったものの,ユーザの委託を受けて要件定義を確定し,本件契約を締結するための作業を行ったのであるから,商法512条に基づき相当額の報酬を受けるべき請求権を有するものというべきである。

 そして,その報酬額は,当事者の意思,実際に要した費用,行った業務の内容・程度等の諸般の事情を考慮して客観的に合理的な額が算定されるべきである(後略)

 さて、この判決を読んでいるとある疑問が湧いてきます。このプロジェクトは、確かに正式契約時には請負とするつもりだったのかもしれませんし、ユーザ側のITリテラシからしても、それが妥当なのかもしれません。しかし、契約前の作業について”請負”のようにベンダ任せで良かったのかという点については、疑問の残るところです。

次のページ
契約前作業では成果物が役に立たなくても費用請求される

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

EnterpriseZine(エンタープライズジン)
https://enterprisezine.jp/article/detail/8202 2016/07/15 06:00

Job Board

AD

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

EnterpriseZine(エンタープライズジン)編集部では、情報システム担当、セキュリティ担当の方々向けに、EnterpriseZine Day、Security Online Day、DataTechという、3つのイベントを開催しております。それぞれ編集部独自の切り口で、業界トレンドや最新事例を網羅。最新の動向を知ることができる場として、好評を得ています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング