「官民データ活用推進基本法」の意義や個人情報保護法制2000個問題の解決に向けて意見交換がなされた。なお、座談会に先立ち番号創国推進協議会が開催され「『官民データ活用推進基本法案』及び『個人情報保護法制2000個問題』」が決議された。
また、座談会前日の7日には、「官民データ活用推進基本法」が参議院で可決・成立し、翌9日の閣議決定を受けて公布、即日施行された。
コーディネーター
- 森田朗…JUMP(日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会)理事長/国立社会保障・人口問題研究所 所長
パネリスト
- 平井たくや…衆議院議員、自由民主党IT戦略特命委員長
- 濱村進…衆議院議員、公明党ICT社会推進本部事務局次長
- 高井崇志…衆議院議員、民進党情報通信議員連盟事務局長
- 足立康史…衆議院議員、日本維新の会
- 横尾俊彦…番号創国推進協議会会長/佐賀県多久市長
- 北川正恭…番号創国推進協議会調査研究・政策提言部会長/早稲田大学名誉教授
- 鈴木正朝…番号創国推進協議会調査研究・政策提言部会主査/新潟大学教授/一般財団法人情報法制研究所理事長
- 梶浦敏範…一般社団法人日本経済団体連合会インターネット・エコノミー作業部会主査/サイバーセキュリティーに関する懇談会座長/㈱日立製作所上席研究員
挨拶―「2000個問題の解決を」横尾氏
横尾:本日、番号創国推進協議会において、緊急決議として「個人情報保護法2000個問題」について決議をさせていただきましたので、皆様にもご報告します。また、この後のディスカッションの中でも取り上げていただければと思っています。
決議文を読み上げます。
官民の有するさまざまなデータの活用推進は、我が国の成長戦略の最大の柱である。今国会で成立した「官民データ活用推進基本法」は、そのための基本的な枠組みを定めるものであり、今後、これに基づく具体的な施策推進が期待される。具体的課題のひとつとして、「個人情報保護法制2000個問題」は重要であり、早急な解決が求められる。当協議会が行った提言「自治体データ及び医療データ連係と個人情報保護法制の問題点 個人情報保護法制 2000 個問題の立法的解決に向けて」(平成27年4月)に基づき、国において迅速に対応がなされることを要請する。
以上です。
今回の官民データ活用推進基本法の法制化に関しましては、今日参加の国会議員の皆様をはじめ多くのお力添えがあったことに心から敬意を表したいと思っています。別紙をお配りいたしましたが、平成27年4月に行なった提言があります。
現状、個人情報保護法加えて、実は、自治体ごとに個人情報保護条例がございます。1788の自治体、つまり都道府県と市区町村があります。これに加えまして広域連合、一部事務組合があり、例えば病院を見れば都道府県立とか市区町村立等もあります。したがって、ざっと見ても2000の個人情報に関するルールがあるのです。それらの主体となる法人や代表者がそれぞれ違います。3頁のように、個人情報の定義づけもかなり差があります。学識者の方々の力をお借りし、ほとんど全ての条例をチェックしました。これらからくる問題が次のページにあります。今後、情報化、デジタル化社会に向かうときに、便利なICT端末やデバイスが出てきて、ネットワークがより高度なものになっていきます。しかし、こういったものの法的規律がはっきりしないと、医療、行政サービス、あるいは具体的には、震災等における被災者の情報をリンクして早く救出すること、あるいは避難所への対応をしていくことなどの様々なニーズに対応できません。遅々として進まない。せっかく前にあるのに手が出ないということになります。ぜひ、こういったことの改善、改革が必要だということをご理解いただきたいと思います。そのことについては4頁目、5頁目に書きました。
加えまして、5頁目とも関係しますが、個人情報保護法は、3年ごとに見直しが行われ、マイナンバー法も見直しが続くでしょう。そのたびに法改正が行われます。実は、その度に、2000の自治体の議決機関で手続きをしていかなければ、行政とのリンクや、シームレスな体制がとれません。行政の改革等もできません。
より良いデジタル社会、デジタル機器やデジタルネットワーク、デジタルテクノロジーを使ったさまざまな経済が今動いています。欧米でも進んでいますけれども、今後は、我が国もそういったガバナンス、ガバメントを作っていく時代になっていくと思います。
こういったところにこの個人情報保護ということが非常に重要であろうということを、7頁に書いています。一つは、法制度におきまして自治体毎に2000個問題を放置しているのではなくて、法律を作っていただき、同じようなプッシュ型のサービスを国民が享受できる状況をぜひ作っていくべきではないかということです。また、一つは機関毎に様々にある適用について、改善をはかるべきではないかということを先に提言をしました。ぜひ、これらのことを踏まえて、データ社会の推進に合わせた法制度の整備、そして、2000もある地方公共団体等が混乱しないで、一人一人の国民の皆さんが必要とする行政サービスを的確に、迅速に、そして公平公正に届くようにしていくためにも、こういった法改正について、ぜひ国会等でも今後取り上げていただきたいという決議をさせていただきました。この後、公開の座談会というかたちで、各党の先生方からデータのこと、2000個問題のことについて、コーディネーターとして森田先生にお願いして、議論を進めたいと思います。限られた時間ではありますが、大変有意義な時間になりますことを心から願って、冒頭の挨拶に代えさせていただきます。
森田:皆様こんにちは。横尾市長が定義しましたように、議論を進めていきたいと思います。本日は私、JUMPの理事長を務めております国立社会保障人口問題研究所の森田が、司会、進行をつとめさせていただきます。よろしくお願いいたします。
今もお話にありましたように、官民データ活用推進基本法が成立いたしました。これからデータをどのように使って我々の社会をよくしていくか、そうした方向に一歩踏み出したところでございます。他方では、2000個問題といわれる自治体の条例が一種の制約になっています。この問題にどのように取り組んでいったらいいのか、出席者の方にご議論いただきたいと思っています。官民データ活用推進基本法が、我が国の社会、地域の課題の解決にどのように貢献しうるのか、また今後の課題として何が重視されているのか、与野党の国会議員の先生からお話を伺います。最初に、平井先生から、これまでの立法の経過、概要等についてお話いただければと思います。
「官民データ活用推進基本法」のねらいと課題―平井氏
平井:自由民主党のIT戦略特命委員長の平井です。全体的な今回の法律の位置づけですが、これは2001年に施行された「IT基本法」を補完するようなかたちの法律としてできました。2001年に施行されたIT基本法は、インフラ整備を主眼にした法律でした。しかし、今日、世の中はインターネットを使うことが前提の社会になってしまいました。これは想定外の部分もあります。IT基本法の中には、セキュリティの概念もない、クラウドの概念もない、ましてやIoTやAIなんて全く想定外、ビックデータの利活用なんて当時は誰も考えていませんでした。そこで、「IT基本法」を補完するようなかたちで、まず作ったのが、「サイバーセキュリティ基本法」です。
ポイントは、「サイバーセキュリティ基本法」も「官民データ活用推進基本法」も政府提出法案ではないということです。両方とも議員立法、各党の有志の皆さんの協力で立法府として提案し、それが制定されたというものです。その意味は何か。
基本的にインターネットが前提になる前の社会の法規制、業法があります。しかし、インターネットを使うことが前提になった社会とでは大きくルールが変わって行かざるを得ません。基本的に、現行の政府で考えてみると、どうしても今ある法律をどうしようか、それに当てはめるとどうなるかと考えるという風になります。つまり、この分野の法律は前例主義では作れない。ここが、議員立法でやる意味の第一番目です。
二つ目は、この法律というものが、省庁全て横断であるいうことです。どこかの省庁が担いで作れる法律でもないのです。全省庁、あるいは自治体まで巻き込んでしまうことになりますので、立法府の責任としてこういうものを出し続けていかないと、社会の変化に法律が対応できないのだろうと基本的に思っています。
その意味で、今回の国会の中でギリギリ法案が成立し、延長する国会の中で昨日、参議院の本会議で成立したというのは非常に大きな意味があります。世間の目はIR法案にばかりにいっていますが、はるかに社会的なインパクトも大きく、社会のために役に立つ法律なのに、マスコミが全然報道しないのは大きな問題だと私は思っています。よく勉強して、この法律に関して、もっと論説を加えていただきたいと、そういう立法者側の思いもあります。
今の社会というのは何に価値があるか、大きな企業、時価総額の大きな順に並べてもらっても、データを獲得して活用している企業が世界を席巻しているわけです。データというのは、IoTやAIにおいても、ガソリンのようなものです。データをうまく集めて、エンジンを動かせるようにちゃんと使えるかが、これからの国際競争力という観点からも非常に大切だと思います。
一方で、日本という国は独特の個人情報保護法制を持っています。個人情報保護法制の改正の時に、データの利活用に対しても十分に配慮しつつ、匿名化等のいろいろな問題をそこに書いても、最終的には個人情報を保護することが目的となります。そうなると、個人の権利の保護をしつつ、社会、国民のために、データを利活用していく、という法律があって、やっとバランスがとれるということになります。バランスをとっておかないと、グレーゾーン、かつてSuicaの問題等々あったと思いますが、現行法に当てはめて白か黒かを付けられないようなものは、やめておきなさいという世界になる。つまり、グレーゾーンが前に進めない状態が続いてしまったら、産業界もやっぱり困るだろうということもあります。
それと同時に、今までデータ、データといいながら、本当にデータに基づいて色々な法整備や決断をしていたかどうか。今までは経験とか勘とか声が大きいとか、そういうところで法律が動かされた部分があり、将来を見据えてきっちりデータに則って物事を判断していかなければならないということもあります。
この法律の概要を7分間で言えというのはおおよそ無理なことなので、今は経緯のところだけ話をさせていただきます。これからの健全なデジタル社会を作っていくためには、ちゃんとしたデータ流通の基本的なルールを作り、データを使うことによって効率性、生産性を上げていくということは、まさに時代の要請だと思います。一方でデータ活用のイニシアティブのようなものは一体どこにあるかというと、どう考えてもGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)です。皆さん簡単な同意をして、無防備に自分のデータをどんどん出しています。私も森田先生もアプローチしていますが、ここで健康情報はどんどん抜かれていくわけです。
一方で、ここは無防備なのに、それ以外の自治体の持っているデータ等に関しては全然身動きもとれないし、国民のためにも使えない。一体このままいくと、データを使うということに関して一体誰がどのように決めていくか、というものが全く見えません。そんな中で、国民のためになるデータの使い方をこれから考えていかなければなりません。法律の中には書いてありますが、データのセルフコントロール、本人の関与のもとにこれからデータをきっちり使えるような方向は政府に求めさせていただいています。データ活用法基本法が施行されると同時に、デジタルファースト、要するにオンラインのデジタルの義務づけ等が入っています。これを実現するためには、行政府が法整備をしていかなければならない、いわば、データを作るためのスタートラインの号砲がなったということだと思います。
各省庁で色々検討していただいている法律が、来年の通常国会に出てくるように、我々、これから力を合わせて頑張っていきたいと思います。その中に、今日のメインテーマの2000個問題等々も入ってくるのだろうということで、時間となってしまったので、法律の中身の細かいところは、皆さん別のところで見ていただければと思います。以上です。
森田:はい、ありがとうございました。今回の法案は与野党を超えた議員立法をなされたことが非常に特徴的であると思います。続きまして、民進党の高井先生から、この問題どう取り組まれてきたのかお願いいたします。